夜明け前の桜道
校門に着くと、見慣れない少年が立ち止まっていた。

私達は、不思議そうに顔を見合わせた後、その少年に話かけてみた。

「あのぉ…」

言い終わる前に、少年は私の顔を見て、ニッコリ微笑むと「サクラ…!」と言って抱きついて来たのだった。

「あ…あの」
「咲良、会いたかった」

全く知らない少年に抱きしめられる経験なんて、人生今まで無いから心臓が飛び上がりそうになる。

頭が混乱して、何が何だか分からない状態である。

「咲良!俺より先に、彼氏作ってたのか!!」
「あら…大胆な…」
明徳は、くだらないことでムキになって怒ってる上に、沙羅は口元に手を当ててポカンとしていた。

「失礼ですが…貴方は誰?、誰かと間違っているんじゃないんですか」

ジロリと、警戒するように睨みつけると、ショボンと少年はうなだれた。

「僕のこと、忘れたのかい?」

忘れたも何も、この少年に会った記憶さえないのに…。

うっすらと、目に涙を浮かべて私を見つめてくる。

校門の前で、ずっと立ちっぱなしのせいか、凄く目立っている。周りの視線がとても痛い、仕方なく場所を変えることにした。
「悪いけど、この子と話し合って来る…少し遅くなるけど…適当に先生に伝えておいて!」

私は沙羅に言い終えると、この子の腕を掴んで走り出す。

後ろからは、「分かったわ〜」「その男と、密会か!?…咲良のくせに。くそぅ!」

明徳は、意味不明な暴言を吐いて悔しがっている。

本当は、怒りたい気分だったが、今はそれどころではない。

私は、急いで屋上に向かった……。
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