逢いたくて
「紅葉!龍馬さんからの手紙よ!!」
お母さんの声を聞いてアタシは飛び上がる。
そのままお母さんが持っていた手紙を奪い取るように掴んだ。
「龍馬・・龍馬。」
『---紅葉へ』
そこにはお世辞にもあまり上手とは言えない字が並んでいた。
『紅葉、元気か?わしは毎日剣の修業じゃ。お陰で女なんぞ目にも入らん。
城下町でおまんに似合いそうな簪を見つけた。綺麗な橙の簪じゃぞ。
それよりもの、この間黒船っちゅーでかい蒸気船を見たがぜよ。
あれはまっことすごか船ぜよ。帰ったら話しちゃるぜよ。』
手紙はそれっきりだった。
なんとも当たり障りのない文のように感じた。
だけど、字を見れば分かる。
“黒船”の件の字が荒い。
ということはそこが一番興奮したらしい。
アタシはその字を撫でる。
この手紙を龍馬はどんな気持ちで書いたのだろう。
胸に龍馬に対する愛しさが溢れてきた。
だけど、逢いたくてたまらない気持ちが募る。
愛しくて、切ない。
まるで片想いをしているときのような感覚。
だけど、片想いじゃない。
けどね、付き合っているからこそ不安なの。
龍馬が知らないところで誰かに惚れていないかって・・。
龍馬を信じていないわけじゃないのに。
ただ、思いたくなくてもそう思ってしまうの。