トリックス☆スターズ
そんな自分勝手な事で相手の心なんて得られるとでも思うのかッ!
スフェーンの心の内を聞いても、あたしはただ彼女が哀れとしか思えなかった。

「お願い…今回の仕事の間だけ」

あたしの背中でスフェーンはしくしく泣き出してしまった。
スフェーンが泣くのを見るのはこれが初めてだ、彼女なりに相当な想いはあるんだろうね。

スフェーンがかつてない程に弱々しく見えた、こういうのってあたしは苦手だな。

浴室から出たあたし達に会話はなかった。
スフェーンもうつむき加減になってしまっている。空気が重いナァ…、シングルにいるシンナバーが羨ましい。
その後、シンナバーが来て食事に出た時も、彼女は殆ど言葉を発する事がなかったよ。
シンナバーはスフェーンの様子にすぐ気がついて声をかけてあげてたけど、スフェーンは少しだけ笑顔を作る程度だった。

唐突に慎ましやかに豹変したスフェーンとあたしは、食事を終えて部屋に戻って来た。
こうなった理由は、全てをあたしに洗いざらい話したからなんだろう。
もう今までの様な事をする必要がなくなったって事だろうね。

これはこれで気まずくなったし、明日に備えてあたし達は眠ることにした。

ロイヤルのベッドは天がいが付いて、煌びやかな装飾まで施された王族が使う様なベッドだ。
布団もふっかふかのやわらかい羽毛が使われていて、これ以上は想像出来ない程ゴージャス極まりない。
こんなベッドに寝られるのは一生の内にそうそうはないだろうな。

これならきっと素晴らしい夢が見れるぞーッって思ったんだけど…

『スフェーン?』

スフェーンがあたしのベッドの脇に立ち、顔は真っ直ぐ前を見たまま目だけが見下ろしている。何かすっごく嫌な予感がするなぁ。

「いいよね…」

『へ?』

スフェーンは小さな声で言うと、雪崩の様にあたしに覆いかぶさってすごい勢いでガウンのヒモを解こうとした。
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