トリックス☆スターズ

19.屈折した想い

あたしはスフェーンから思いもよらない言葉を聞いた。

動物の様な彫刻の口から流れ出るお湯の音と、耳元で聞こえるスフェーンの吐息だけが聞こえている。
あたしは灯りのゆらめきが、湯面にゆらゆらと映り込んでいるのをじっと見つめていた。

「おチビたん…好き好き」

スフェーンは両手でしっかりとあたしを抱きしめ、交差した腕はあたしの両腕を掴んでいた。

『スフェーン?一体どうしたの?』

「あたしがどれだけ探していたかなんて、おチビたんにはわかんないよね
 あれから3年、3年もだよ」

スフェーンは一体何を言ってるんだろう?

「あなたはあたしがあの街に、ただ偶然立ち寄っていたと思ったかもしれないけど」

『え?』

「偶然なんかじゃないの」

まさか、スフェーンはあたしの事を3年間もずっと探してたって事?

「魔戦士組合の登録に小細工魔法士で登録したでしょ?
 名前は変えてたみたいだけどそれで分かったんだよ
 一昨日知って昨日急いで来たんだから」

それを聞いても、あたしは「しまった」としか思わなかった。
スフェーンがあたしに好意を寄せるのは勝手だけど、あたしが誰を嫌うかも勝手だからね。
今更「好き」と言われても、はいそうですかと受け入れる事なんてありえないんだ。
得てしてやんちゃな男の子が、ありがちに好きな女の子にちょっかいを出すパターンでは、ほぼ確実に受け入れられる事がないのと同じなんだ。
これはよく物語りの設定では定番になってたりするけど、あたしに言わせれば実際にそういう目にあった事がない人が安易に考え付いた無責任な味付けなんだ。
< 98 / 209 >

この作品をシェア

pagetop