@名もなき冒険者
名もなき冒険者
── 天晶暦850年代後期

不穏な空気の噂がされてはいたが、ヴァナディール全土に冒険者達はあふれていた。

サンドリア王国は、冒険者特例優遇制度の影響だろう城下町が結構賑わっている。

冒険者特例優遇制度と言えば聞こえはいいが、単なる周辺の治安を向上させる為の間に合わせの傭兵集めである。

確かに、サンドリア城周辺に戦闘可能な人材をはべらせておけば、敵に攻め込ませない為には効果的らしい。

サンドリアは近くに陣取るオーク族と拮抗していた。

その為サンドリアで言う敵とは、すなわちオーク族が該当する。

王国は見境なく冒険者をかき集めた、素人同然の冒険者から歴戦の勇者までが集まっている。

冒険者は国からの任務、ミッションの遂行能力によりランク付けされる。



─冒険者志願

わたしがサンドリアに来たのは、ただ生きる為の糧を得るためだった。

手に職を持つ訳でもない者は、動く体があれば冒険者となる者も少なくはない。

しかし、安易に冒険者になった者は、たやすく消えてゆくことも多いのが現実だ。

わたしもその摂理のままに消えてゆく存在なのだろうか。



─ それにしても ─


この街は大きいな



門をくぐると、石畳が敷き詰められた大きな通路にぶちあたり、手前の壁ぎわには優遇制度の為に仮説的に作られた小さな競買所があった。

その競買所を背にすると、前には千人が集まってもまだ余りそうな広場、さらにそのはるか先の空には城らしき建物も見える。

いかにも浮き世離れした偉い人がいそうな建物だ。


まず、一生会うこともないんだろうな。
< 1 / 29 >

この作品をシェア

pagetop