擬似レンアイ。
「うわっ…」
突然グイッと手首を引っ張られ、思わず身体のバランスが崩れる。
そんな私に少しだけ反応し、軽く振り向いた"彼"。
「あ、いや…大丈夫です」
私が小さくそう言うと、彼は再び前を向き、
私の手首を持ったままスタスタと歩き出す。
……また、後で怒られるかなぁ。
そんなことを考えながら、私は必死に彼の後を追う。
――彼にかかれば、人波なんか大したことじゃない。
まるでお祭りみたいな人混みの中でも、何故だか彼はスイスイと前に歩いて行けるんだ。
……今回も、沢山の女の子達の中を何も無いかのように通りすぎて行く。
マイペースに、そして無関心に。
「えーっ。真白さん待ってよ~」
そんな声が背後から聞こえて来たけど、彼は眠そうに欠伸をしながら歩き続ける。
――まるで、"真白"という自分の名前を呼ばれているということに、気付いてないように……。
――――――――…