世界で1番愛してる
第五部
勇気
それからの事はあまり覚えていない。
草原の中で穏やかに笑う涼太がいて、私は携帯を持ってどこかに電話して。
それからは本当に何も覚えていなかった。
ようやくぼんやりとでもわかるようになった時はいつもの病院の中にいた。
隣には、ママ。
反対の隣には、河内先生。
目の前にはベッドの中の涼太。
「シズ…涼太はね、」
「ママ……涼太、寝てるみたいだね。」
本当に寝てるみたい。
ちょっと笑って、すごく幸せそうに寝てるみたい。
「でも、もう起きないんだよね。」
わかっていたんだ。
寝てるみたいだって…涼太はもう起きないんだよ。
わかっていても、涙は出てこなかった。
「涼太……お疲れ様だね。もう辛くないよね…?」
返ってこない返事も、それでよかったんだよ。
涼太はもう辛くも苦しくもないんだから。
「シズっ…」
「大丈夫だよ。……涼太ね、向日葵畑に居たときすっごく優しく笑ってたの。
きっと今頃…優しい所に行ってるよ。」
ママが泣いてた。
人目なんて気にしないで、声を出して泣いてた。
先生も目が真っ赤。
私は…泣いちゃダメ。
私が泣いたら涼太が心配するからね。
だから笑ってさよならしなきゃ。