Holy×Kiss~闇の皇子より愛を込めて~【吸血鬼伝説】
 念を押されるように言われて、思い出した。

 そう。

 時折、大輪の花のような笑顔を見せた女がいた。

 特に、名を名乗りあうでなく半年ほど付き合った女だった。

 最後は僕の名をねだり、聞いて、僕の腕の中で旅立って行った彼女。

 今岡 涼子といったのか。

 僕のかすかな表情の変化を、大槻は、見逃さなかった。

「……やはり、ご存知だったのですね? 四日前の夜、あなたは、どこにいましたか?」

「僕が、殺人犯だとでも……?」

「あなたが、やったんですか?
 だとしたら、是非どうやって殺したのか聞きたいところです。
 残念ながら、彼女は、原因不明の多臓器不全による衰弱死……つまり、体の機能がいっぺんに衰えて亡くなってしまったのです。毒物も検出されませんでしたし、他殺ではありえません」

「……そうですか」

「そんなに、安心した顔をしないでください。本題は、この後ですから」

 大槻は、口の端を歪めるように微笑んだ。
 
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