Holy×Kiss~闇の皇子より愛を込めて~【吸血鬼伝説】
 爪や、翼は無かった。

 しかし、明らかに、人間ではなかった。

 猫の瞳のように、縦に瞳孔が開く紅い目は、上質なルビーの輝きを放っている。

 最後に見たときは、むしろ逆立っているかのようにも見えたほど、短かった黒髪は、床に着くかと思うほど長く伸びていた。

 その髪が。

 ごく当たり前の衣服を吸血鬼の衣装に変えている。

 松嶋らしい、見知らぬその男は、長い髪を鬱陶しそうに掻き揚げた。

「その女には、当分、目覚めぬほどの薬を飲ませてある。
 回復次第、喰え」

 男の言葉に、今までの穏やかな気分が一掃された。

 かっ、と目の前が紅くなるほどの怒りが、再燃する。

「ここにいるのは、『女』ではない。
『凛花』だ……!」

 僕の主張を、松嶋は、鼻で笑った。

「どちらでも、同じ事だ。
 俺は、あんたの回復にしか興味ない。
 その女が好みでなくて喰えないのなら、別の女をさらって来てもいい」
 
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