Holy×Kiss~闇の皇子より愛を込めて~【吸血鬼伝説】
「この月光の如く輝く髪が。
その皇家の紋章を刻んだ瞳が、証だ……皇子よ……」

 松嶋は、ゆっくりと僕から離れてひざまずいた。

「千年の時を超え、俺は……私は本来の役目に戻らなければならぬ。
 私は、私の一族は……永遠に皇家を衛(まも)る責を負う。
 自らの血にかけて、誠の忠誠を……」




 まるで。

 まるで、松嶋は、魅了の魔法に侵された、人間であるかのようだった。

 自分の意思を半ば見えない何かに、支配されているようにも見える。

 痛い程一途な忠誠……? 

 いや執着に僕は、狼狽した。

 吸血鬼は、決して魅了の魔法にかからないと信じていたから。

 魔法に打ち勝ち、自分の意思をしっかりと持っているものだと思っていたから。

「……松嶋……?」

「あなたに、もう、その偽りの名で呼ばれたくはない。
 ……残月と」

 松嶋は……残月は自嘲する。

「あまりに長く、一人で暮らしたために、吸血鬼の言葉は失われてしまった。
「残月」それが、私を現すのに、一番近い言葉だ……皇子」

 苦しげにも見える、残月の微笑みの意味を、僕が、きちんと理解してやる余裕は無かった。





 僕に、激しい『飢え』が来たのだ。
 
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