Holy×Kiss~闇の皇子より愛を込めて~【吸血鬼伝説】
 嫌な予感がする。

 僕は這いずるように移動すると、勢い良く扉を開けた。

「残月! お前は一体なにを……!」

 ……しているんだ、と言う言葉は、空に消えた。

 僕の目の当たりにした、光景のために。

 凛花は、無事だった。

 長椅子に、その身を横たえ、白い喉をさらしてはいたが。

 彼女に新たな傷はなく、息も平静だった。

 しかし、残月は。

 漆黒の吸血鬼は、自分の爪で、自らの左手首を傷つけていたのだ。

 血が、溢れて、流れてゆく。

 僕は、思わず生唾を飲んだ。

 良い匂いのする、奇妙に明るい赤色の液体は、小さな滝となって、銀の器に吸い込まれてゆく。

 血が欲しくて、血が欲しくて。

 その光景から、目が離せなかった。

 しかし、生の血液は……

「飲めないのに……」

 渇いた僕の呟きに残月は、微笑んだ。
 
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