Holy×Kiss~闇の皇子より愛を込めて~【吸血鬼伝説】
「……!」

 僕は、一気に血の気が引いて、凛花を引き離した。

 残月。

 残月だって!

 僕が指を抜くと、凛花は、ああっと小さく声を上げて、荒い吐息をついた。

「……どうした……の?
 残月?」

 凛花は、わけが判らないとでも言うように、小首をかしげる。

 魅了の魔法だった。

 相手の一番愛しい者に自分を重ねあわす、魅了の魔法以外何物でもなかった。

 凛花は、魅了の魔法にかかって、僕を残月に重ね合わせてしまったのだ。

 凛花のなかでは、目の前に居る僕は「残月」以外の誰でもなかった。

 そう。

 判っては、いたんだ。

 こんなやりかたでは、決して凛花は僕の名前を呼んではくれない事を。

 僕を本当に、愛してなんか、くれない、という事を。

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