Holy×Kiss~闇の皇子より愛を込めて~【吸血鬼伝説】
 いつも遠目に見る、ごく普通のデパートの看板は、たいしたことのない大きさ思えるのに。

 実際に、てっぺんの淵に腰かけてみると、切り立った崖のようだった。

 ペンキの塗り替え以外、普通は人も立ち入らないので、当然、階段一つ無い。

 ともすると、くらくらと目が回ってしまう様子の凛花をこっそり支えて、僕はため息をついた。





 残月……出入り口用にアパートの一つぐらい、借りておけ。





 吸血鬼は、自分を不可視に……人間の意識から自分の存在を外させる事はできる。

 だから、こんな目立つところにだって出入り口を作っても、騒がれないのだろうが。

 ……普段、教師何ぞやっているくせに、仮の住所がデパートで困らないのだろうか?





「……っと。
 凛花、待って! 危ない!」



 僕が、やれやれと肩をすくめている内に、一刻も早く地上に降りたい凛花が、降り口を探して動き出すのを、僕は慌てて止めた。
 
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