Holy×Kiss~闇の皇子より愛を込めて~【吸血鬼伝説】
 頑なに言い募る残月に、僕は微笑んでみせた。

「千年の孤独の中で、お前は、お前なりに生きて来たのだろう?
 その時間は、夢ではない。
 たったの数日で、覆られるような幻ではないはずだ」

「ですが……」

 残月の瞳が、揺れる。

 それは。

 確かに。

 長い時の間、残月の中に息づいて来た彼の自我とか、意志と言った、この世で一番、大切なもの。

「どうしても、血の呪縛で、自分の存在に疑問があるというなら。
 これから『僕』に捕らわれて、前に進めないというのなら。
 そんなもの、僕が解いてやる……!」

 僕は、残月の顔を、こちらに向けると、素早く、その瞼に口付けた。

 ……これで、少なくとも『魅了』は、解ける。

 そして、僕は、祈った。

 残月の魂が、少しでも自由であるように。


「……残月。
 お前は、自由だよ。
 今までも。
 これから、先も、ずっと」

「皇……子……」

 残月の声が。

 泣いているように、震えた。
 
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