Holy×Kiss~闇の皇子より愛を込めて~【吸血鬼伝説】
「短気なお嬢サマを捕まえるのは、簡単だな」

「黙れ!」

 牙王は、ようやく莫迦笑いを止めると、すうっと目を細めた。

「なぁ、皇子サマ。
 このまま、キサマの両腕をもぎ取ってみせようか?」

 く……!

 牙王の手から逃れようと、身をよじるが、びくともしない。

 にたり。

 牙王が見事に発達した犬歯を見せつけるように、耳まで裂けた口を開いた。

「これで、キサマは、ジ・エンドだ。
 苦しかったぜ。
 キサマを見るたびに、喉はむやみに乾く。
 声を聞くたびに地に足が着かなくて、落ち着かねえ。
 そして……何だよ!
 コレは!」

 牙王が喉の奥で、低く唸った。

「胸が苦しいぜ!
 クソったれ!
 キサマには、目じゃなく、胸をえぐられた気分だ……!
 この痛みは何なんだ!」

 牙王は、僕の両腕をひとまとめに掴むと、地面に叩きつけた。

 何度も。

 ……!

 受け身一つ取れずに、息が詰まった。

 一打ち毎に、僕が壊れてゆくのがわかる。

 速さを封じ、手を放しても逃げられなくなるまで、打つつもりなのか。
 
< 258 / 298 >

この作品をシェア

pagetop