Holy×Kiss~闇の皇子より愛を込めて~【吸血鬼伝説】
 余裕で掴んだはずの僕の腕が、エンキの粘液で、滑ったのだ。

 僕の爪は、牙王に突き刺さった。

 まるで、吸い込まれるように。

 心臓の下。

 みぞおちの上辺りに。

 致命傷をややずれた傷に、牙王は即死を免れて、唸る。

「キサマの細せぇ爪なんざ……胸に刺さっても痛くねぇ……」

 しかし。

 もはや、牙王に力はなかった。

 自分に突き刺る爪を抜こうとして僕を掴んだその手には。

 僕は、心臓を目指して、爪に力を込める。

「ぐはっ……!」

 牙王の口から溢れた血が、僕にかかった。

 甘い。

 残月のと同じ、吸血鬼の血が。

「オレが……キサマを……ヤるハズだったのに……」

 牙王は、自分を嘲(わら)う。

「こんな……結果も……そう、悪くねぇ……
 ……不思議だぜ……キサマの爪……刺さったら……胸の痛みが……
 キサマにあってから……ずっと痛んでいた……胸の痛みが……消えて……なくなる……なんて………」

 
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