Holy×Kiss~闇の皇子より愛を込めて~【吸血鬼伝説】
「牙王」

 牙王の手が。

 僕の汚れを落とそうとするかのように、身体に触れた。

 こんな、牙王の表情を、僕は今まで見たことはなかった。

 穏やかな表情だった。

 静かで、とても穏やかな表情だった。

「……キレイな……オレの……皇子……サマ……
 オレは。
 ……オレは……
 本当は……あなたを……こんな風に……汚すつもりは……なかった……のに………」

「牙王……!」 

 まるで、悲鳴のような。

 僕の心を代弁するかのような声が背後で響いた。

 悲鳴の主は、僕たちに向かって全力で駆けてきた。

 校長だった。

 東星学園の女校長は、固まったかのように動けない僕を、牙王から死に物狂いで引き離した。

 そして、牙王の胸から鼓動に合わせるように吹き出す血を、必死に抑えて、叫んだ。

「お前は!
お前は、私の息子に何をした!!」

 息……子?

 女校長の息子は、牙王だったのか?

 花壇の手入れを手伝った時に、言っていた。

 花が好きだと言っていた。

 校長の自慢の話しが尽きない息子は……牙王だったのか!!
 
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