Holy×Kiss~闇の皇子より愛を込めて~【吸血鬼伝説】
 短く答えて、そのまま出かけようとする僕を、ざさ波が止めた。

「皇子。しあげがまだですよ」

「ああ……そうだったな」

 すっかり、忘れていた。

 ……やはり今日は、今ひとつ調子が出ない。

 僕は、千里に手を添えると、静かに呼吸を整えた。



 ……すう。


 呼吸に合わせて、千里に僕の姿が映る。

 暗い色のスーツを着て、黒ぶち眼鏡をかけた、人間の顔だ。

 いかにも硬い雰囲気を、少し長めの黒髪が裏切っている。

「じゃ、行って来る」

 鏡面から手を放した僕に千里が答えた。

「行ってらっしゃいまし……幸運を。
 ただ、首尾よく女性を捕まえても、ここで……ご自分の部屋でお食事はしませんように。
……万が一にも、そんな事をなさったら私は、嫉妬に砕けてあなたの胸にまっすぐ刺さってやりますわ」

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