Holy×Kiss~闇の皇子より愛を込めて~【吸血鬼伝説】
 女の首についたひどい傷でさえ、人間の目には映らない。

 僕が、女を所有した証の牙の跡は、本人と吸血鬼とにしか判らない。

 たとえ、このまま女が死んでも、人間の医師は……司法機関は、心臓麻痺か、臓器不全と判断を下すだろう。

 西暦2000年代の日本では、公に吸血鬼は存在しない事になっていた。

「ああ……私も吸血鬼になれれば……いいのに……」

 ……それも、ない。

 僕は、心の中で呟いた。

 吸血鬼は、今、自分ひとりだけだ。

 長い、長い時間をたった一人で行きぬく寂しさに、何度人間を仲間にしようと試みたのか、判らない。

 しかし、結局。

 何をやってみても、人間には、死。

 自分には孤独しか、残らなかった。

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