Holy×Kiss~闇の皇子より愛を込めて~【吸血鬼伝説】
「……だから……私を殺して……?」

 決意の固さに、僕は、思わず目を伏せた。

 僕には、もう、何も出来ないから。

 ……この女に、死を。

 痛々しい首筋に、そっと唇で口づける。

「ありが……とう……」

 女は、大輪の花のように微笑んだ。

「……最後に、一つだけ……聞かせて? ……あなたの……偽名でない…本当の……名前を……」

「……夜」

 本当は、仰々しくも長い名前があったのだけれど。

 人間が発音できる言葉ではない。

 日本語で「僕」を表す意味と同じ言葉は、たった一言だけだった。

「僕の名前は『夜』という」

「……そう」

 女が、満足げに目を閉じたのを見て。

 僕は、女に再び牙を突き刺した。
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