君を
11
夕飯はシチュー。
暖かくなってきたけど、消化のいい物がいいだろうと、羽夏が伝えてくる。
苛々としたその顔から、勿論作ったのが羽夏ではないのだと分かる。
レトルトのソースを使っていないシチューに驚くとともに、舌が勝手に懐かしい味と判断しているのにも驚く。
食べた記憶はない筈なのに、舌あ懐かしいと訴えてくる。
記憶との噛み合わなさに、自分もイラついてくる。
「すなお、美味しいっ。やっぱすなおのご飯が一番っ。ねっ明日は豆腐料理が食べたい」
オレに対しての態度のかけらもなく、にこにこと相良すなおに笑顔を向ける羽夏。
「あ、ありがとう、羽夏さん」
羽夏の隣でスプーンを動かしていた相良すなおが小さく応える。
羽夏のようにはきはきと喋らず、半分以上飲み込んでしまったような小さな声。
こんな卑屈な女をオレはどうして傍に置いていたのだろう。
「お豆腐……何がいいかな?麻婆豆腐とか、厚揚げとか…」
ゆっくりとした声に、遅々として進まないスプーン。
苛々する。
「すき焼きもいいよねぇ」
春兎の声も混じる。
仕事もあるのに、全く意味の無い会話に、全然なんくならない目の前の皿を見るだけで腹が立つ。
がしゃり。
食器を置くと、席を立つ。
「永久、もういいの?」
羽夏の声が背中にかかるが、ひらひらと手を返して応える。