君を
「ごめ………なさ」
さっきの夕飯の時のような、半分以上擦れて聞きづらい声。
要領を得なくて、イラつく。
何が言いたいのか、全く分からない。
この状態で謝罪してなにが好転するというのだろう。
それが伝わるのだろう、より相良すなおは慌てて、どうしたらいいのか分からないというように、怯える。
目の縁が更に赤くなり、また、泪が零れそうだ。
全て、悪循環で追い詰めているということが分かっているのに、やめられない。
泣け。
泪を零せ。
とでも心中にあるのかは、自分自身分からない。
ただ、止まらなかった。
「…ッ…………ごめ、………怒らな……っ」
擦れたそれは声にすらならない。
怯えて左右を見つめ、逃げ場を探している。
そんなもの、与える訳がないのに。
後退りして、少しでも自分から離れようとでもいうのか。
そんな事、許す訳がないのに。
まだ吐き気が収まらないのか、体がふらついている。
体調管理も出来ないのか、とその行動の逐一に苛立つ。
こんなに他人を腹立たしく思うのも久しぶりだと思う。
いや、退院してから今まで、他人に感情が波立たなかった。
級友に話し掛けられ笑っても、両親からのたんたんとした事後報告の電話も、何も琴線に触れず。
心を動かされる事は無かった。
この女に対して以外だけ。
この女だけ動向が気になり、苛立つ。
「ごめ、なさ…」
「それしか喋れない訳?」
ひくり、息を呑む音が聞こえてくる。
じわりとまた目の縁に泪が溜まるの見て取れた。
彼女の泪を見ると苛立ちが更に募る。
「そうやって泣いて被害者ぶってオレに同情でもして欲しいのかっっ」
思わず足を踏み出すとすぐに彼女を見下ろせるくらい近づいた。
彼女の震えが更に増したのもよく分かった。
両手がぶるぶる震えて、顔面は蒼を越えて紙のように唇も白い。
キョロキョロと忙しなく動く大きな瞳。