君を
3
『うま、これ。羽夏腕上げたなぁ』
綺麗なスクランブルエッグとコンソメスープにパンにサラダ。
前の家なら使用人が作っていたが、今は俺達だけ。
自然と朝食を作ったと思われる羽夏を褒める。
塩加減も完璧だし、美味い。
どかっ。
『っっっっ!?』
脛蹴られた!
褒めた筈なのに。
『永久本気で言ってるのかよ』
春と羽夏に睨まれる。
退院してからこの二人は俺を敵のように扱う。
酷すぎる。
まだ怪我完治してないのに。
『透尚よ』
羽夏の低い声。
はぁ。
地雷踏んだ。
またか。
くしゃりと思わず前髪を掴むと、顔が歪む。
散々病院で聞かされた名前。
相良透尚。
病室で初めて見て、急に飛び出してから数回しか会ってない。
繊細そうな白い小さな顔と整った目鼻立ちを思い出す。
知らない。
と軽く口に出したら哀しそうに顔を歪めて飛び出して行った。
ずきりと頭が痛んだが怪我のせいだと無視した。
『全部透尚がいつも作ってんのよ』
不機嫌に告げられる。
懐かしい、と思いながら食べてしまうのは、何故だ?
『いつもあんたと透尚がご飯作ってくれてたのよ』
俺が?
確かに器用だし作れば上手そうだけど、なんで家政婦雇える俺が?
意味分かんね
『私今のあんた嫌い』
しっかり料理を全部平らげて片付けよろしくと羽夏が席を立つ。
なんだよ、苛々する。
上手くいかない。
俺はこんなんじゃなかっただろ。
『永久、早く思い出せるといいな』
別に生活に支障が出るような記憶の欠落はない。
必要無いといったら無くてもいい。
でもこの二人の反応。
それ以上に自分の中に焦りが生まれている。
思い出したい。
切に願う心が生まれるのを必死に否定した。