アマテラス!
こいつ……鬼だ。
いたいけな幼児の皮を被った悪鬼だ。



「早く~」



甘ったるい声だがオレを見下ろす瞳は嗜虐の光で満ちている。
こんな幼児の言いなりになるのは屈辱極まりないが、こんな這いつくばった無様な格好をご近所さんに晒すのは御免だ。
オレは恥を忍んで口を開く。



「……こと……んで……さい」

「聞こえな~い」



殺してぇ。
だが殺すにも指先一本動かない。
なすすべなく黙り込むオレを幼児があどけない表情で覗き込む。
だがその無邪気な表情の裏にはおそろしく嗜虐的な悪魔の顔が透けて見える。
畜生。



「……ッ!! 言うこと聞くんで立たせてください!!」

「んー……、まぁおまけでオッケーにしちゃおうかな。……初めてだし」


突然身体を縛っていた力が消え、オレは即座に立ち上がる。
そして目の前の小憎っらしいガキに右ストレートをお見舞いする。

スカッ。

盛大に空振り。
ガキははるか頭上に浮き上がり、ぷよぷよのほっぺを膨らませていた。



「酷いじゃない! いきなり殴りかかるなんて!」

「うるせー! 殴られて当然のことしてんだろうが!」



なんだ、今最後にちっさく聞こえた「初めてだし」ってのは。
今後も同じことさせる予定でもあるのか。

ガキはふわふわと漂い神社の外へと向かう。
暗がりの中で淡く光り浮遊する様は確かに人外のものとしか思えない。
美しい幻灯でも見ている気分だ。



「何してるの? 天照。置いてっちゃうよ?」

「あー……ハイハイ」



このガキが何者にせよ、とにかくオレはこのガキに着いて行かなきゃならないようだ。

どうあがいても逆らえない。
状況理解できなくたって奴はお構いなし。
どんなに理不尽でも避けられないことだってあるさ。

オレは腹を括って一歩踏み出す。
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