アマテラス!
「天照! おまえはその賽銭箱を持って国中を行脚し、人々から“心の籠った”賽銭を集めて来るのだ」
「はぁ?」
とうとうボケたかジジイ。
いきなり人を外に叩き出しておいて何言ってやがる。
「そうして一歩ずつ人々の信仰を取り戻せ。これはおまえが一人前の神官になるための修行の旅だ」
いやいや、馬鹿は休み休み、冗談は顔だけにしてくれよ。
旅に出ろとはあまりに唐突過ぎるだろう。
こんな突拍子もない旅立ちの仕方は小説でしか見たことねぇよ。
「それじゃあ天照、達者でな」
「待てやコラ」
ジジイが踵を返して引き戸を閉めようとするのを足をはさみ入れて阻止する。
戸を閉めようとするジジイの力と戸を開けようとするオレの力が拮抗して戸がガタガタと震える。
「いきなり旅にでろたぁどういう了見だジジイ! 可愛い孫をいきなり丸裸で外に放り出す奴があるか! 大体ろくに準備さえしてねぇんだよ心も身体も!」
「甘ったれるんじゃない糞ガキ! 大体こんなに身体も態度もデカい奴が可愛いわけなかろうが! いい機会だからその捩じ曲がった根性を叩き直して来い!」
老人とは思えぬ力でピシャリと戸を閉める。
勢いで弾かれたオレはまた尻餅をついた。
「安心しろ。心強い助っ人を頼んである。社の前に行って見ろ」
カチャカチャと錠を掛けながらジジイが中で喋る。
何が助っ人だジジイあまりに用意周到だ。図ったな。
「覚えとけよ! 糞ジジイ!!」
オレの叫びは虚しく満天の星空に吸い込まれていった。