ぼくたちは一生懸命な恋をしている
そう思いながら、もう半年以上が経ってしまった。どういうわけか、いまだにあのつぶやきが耳から離れない。

不愉快でモチベーションは下がる一方。予定されていた休業期間は終わったものの、学業に集中したい、なんてそれらしい言い訳を盾に仕事を以前より減らして、オレはくすぶっている。そんなときに丈司の件があったもんだから、荒れに荒れてしまったのだ。駿河のおかげで環境を大きく変えることができて、いくぶん気は紛れているが、紛れているだけで何も解決はしていない。

黙ったままのオレの肩を、駿河が軽く叩いた。

「心配してるのは俺の勝手だから、気にしないでいいよ。まぁ、思う存分、ゆっくり悩んでみるのもいいんじゃないかな」

この男は、アドバイスをしてこない。あくまで見守る姿勢を示すだけだ。今のオレに必要なものが中途半端な共感や慰めでないことを分かっている。なんでもかんでも首を突っこんでお節介を焼きたがる丈司とは違う。特別な人間同士、通じ合うところがあるのかもしれない。その信頼が、オレの口をゆるませる。

「駿河は、とらわれたこと、あるか?」

「あいちゃんとかなでにはとらわれっぱなしだけど」

「ちがう!そういうんじゃなくて、他人に」

あんま良くない感情で、と付け加えると、駿河は「ごめん、分かってるよ」と笑って、しばし思案した。

「そうだね……俺は大切な人以外どうでもいいと思ってる薄情者だから、とらわれるほど他人に執着したことはないかな」

執着。

今、はじめて気がついた。とらわれているのは執着しているせいだ。
どうしてオレは、こんなにも執着しているのだろうか。
実力主義の世界から淘汰された、あんなちっぽけな人間の戯言に。
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