ぼくたちは一生懸命な恋をしている
「ここがあいりちゃんの部屋かぁ」

まじまじと観察されて落ち着かない。

「とくに何もないよ」

机とベッドと本棚、女の子らしいところといったらお母さんにもらったお人形がならんでる飾り棚があるくらい。こんなの見ても、面白くないはずなのに。

「何もないことないよ。きちんとしてて、お行儀がよくて、あいりちゃんそのものって感じがする。可愛い彼女の可愛い部屋に来れて幸せだよ」

彼女って呼ばれて胸がズキッとした。流されちゃダメ。ほんとに、今伝えないと。

「隼くん、あの、」

話を。
言いかけたところで、するりと伸びてきた手に頬をなでられた。

「そんな深刻な顔してしなきゃいけない話なんて聞きたくないな」

急に声をひそめた隼くんの、穏やかなまなざしが近づいてくる。

「せっかく二人きりで、ベッドもあるんだ。恋人同士でしかできないこと、しようよ」

頬をなでてた手が首の後ろに回ってきて、もう片方の手で腰を抱き寄せられて、何もかもが優しかったから、自分が押し倒されたんだって気づいたのは、ふんわりとベッドの上に転がされたあとだった。倒れた衝撃ですこしズレてしまった眼鏡が、そっとはずされて視界がぼやける。

「もっと俺のこと知って。あいりちゃんのことも教えてよ」

聞いたこともない甘い声。覆いかぶさってくる体。はずされてくブラウスのボタン。自分がこれから何をされるのか気づいて、耳元でサイレンみたいに心臓の音が鳴り出した。
私を見下ろす瞳は優しいのに、恐い。開かれたブラウスの隙間から冷たい指が忍びこんできて、無意識に震えた体に「かぁわいい」と吐息が降ってきた。

鼻が触れ合いそうなほど顔が近い。このままじゃ、くちびるまでくっついちゃう。

どうしよう。いやだよ。隼くんとこんなことしたくない。
やめて。
たすけて。
だれか。

「駿河くん」

ぎゅっと目をつむったら、涙が一筋こめかみを流れた。
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