ぼくたちは一生懸命な恋をしている
目を閉じたまま、時間だけが過ぎてく。おそるおそるまぶたを開けるてみると、寂しそうに目を細めた隼くんがいた。
「……相手が俺だったこと、あいりちゃんは感謝したほうがいいよ」
「ふぎゃっ」
突然、鼻をつままれて悲鳴をあげたら、「ごめん」と抱き起されて。ぽかんとしている私に、隼くんは苦笑いでもう一度「ごめんね」と言った。申し訳なさと悲しさの混ざった表情。それを見て、我に返る。とっさに呼んでしまった名前は、もうなにも話す必要がないほどの告白だった。
「ごめんなさい」
涙がぽろぽろあふれてくる。
「隼くん、ごめんなさい」
「あぁ、そんなに泣かないで」
しゃくりあげる私の肩をなでながら、隼くんは話しはじめた。
「実はね、俺、裏切者だったんだよ。ちっとも俺に興味を示さない女の子がめずらしくて、どうやったら落とせるかなって、最初はゲーム感覚であいりちゃんに近づいたんだ」
裏切られた、とは思えなかった。私は隼くんの優しさを知ってる。だけど、出会ったころ毎日保健室に通ってくる隼くんに心開けなかった理由が、何となくわかった気がした。
「でも、知れば知るほどあいりちゃんはいい子で、いい彼氏になろうって、いつのまにか本気でがんばってた。守りたいって思ったんだ。……それなのに、こんなに泣かせて苦しめちゃ意味ないね。あいりちゃんの気持ちが俺にないことわかってたのに、放してあげられなくてごめんね。お互いにウソついてたんだから、俺たちはおあいこだよ」
隼くんは私の首からネックレスをはずして、それを切なげに見つめてにぎりしめた。
私を助けてくれたお守り。それは隼くんの存在そのものだった。
「ほんとの恋人にはなれなかったけど、あいりちゃんと過ごした時間は楽しかったよ」
たくさん支えてもらった。いろんなことを教えてもらった。数えきれないほどのウソをついてしまったけど、思い出はぜんぶウソじゃない。
「私も。私も、隼くんと一緒にいて、楽しかった」
止まらない涙をぬぐってくれる隼くんの指は、どこまでも優しい。
「これからは、また、友だちに戻ろうね」
乱れた服を整えようとしてくれた、そのとき。
玄関で大きな物音がして、そこからは息を飲む暇もなくて。荒々しく開かれたドアから現れたのは、スーツ姿の駿河くんだった。
どうして?お仕事に行ってたはずなのに。
「おじゃましてまーす……」
おどけようとした隼くんの声が、静けさに消える。
「……離れなさい」
体の芯にひびいてくる低い声。勝手に肩がビクッと揺れる。隼くんは、ゆっくりとベッドから立ち上がった。
駿河くんは凍りついたように無表情で、「あの」と口を開こうとした隼くんに「出て行け」と言った。
「俺、後ろめたいことはひとつもしてません」
堂々とした隼くんに、駿河くんはもう一度「出て行け」と繰り返す。
喉がカラカラに乾いて声が出ない。
隼くんは、振り返ることなく行ってしまった。
「……相手が俺だったこと、あいりちゃんは感謝したほうがいいよ」
「ふぎゃっ」
突然、鼻をつままれて悲鳴をあげたら、「ごめん」と抱き起されて。ぽかんとしている私に、隼くんは苦笑いでもう一度「ごめんね」と言った。申し訳なさと悲しさの混ざった表情。それを見て、我に返る。とっさに呼んでしまった名前は、もうなにも話す必要がないほどの告白だった。
「ごめんなさい」
涙がぽろぽろあふれてくる。
「隼くん、ごめんなさい」
「あぁ、そんなに泣かないで」
しゃくりあげる私の肩をなでながら、隼くんは話しはじめた。
「実はね、俺、裏切者だったんだよ。ちっとも俺に興味を示さない女の子がめずらしくて、どうやったら落とせるかなって、最初はゲーム感覚であいりちゃんに近づいたんだ」
裏切られた、とは思えなかった。私は隼くんの優しさを知ってる。だけど、出会ったころ毎日保健室に通ってくる隼くんに心開けなかった理由が、何となくわかった気がした。
「でも、知れば知るほどあいりちゃんはいい子で、いい彼氏になろうって、いつのまにか本気でがんばってた。守りたいって思ったんだ。……それなのに、こんなに泣かせて苦しめちゃ意味ないね。あいりちゃんの気持ちが俺にないことわかってたのに、放してあげられなくてごめんね。お互いにウソついてたんだから、俺たちはおあいこだよ」
隼くんは私の首からネックレスをはずして、それを切なげに見つめてにぎりしめた。
私を助けてくれたお守り。それは隼くんの存在そのものだった。
「ほんとの恋人にはなれなかったけど、あいりちゃんと過ごした時間は楽しかったよ」
たくさん支えてもらった。いろんなことを教えてもらった。数えきれないほどのウソをついてしまったけど、思い出はぜんぶウソじゃない。
「私も。私も、隼くんと一緒にいて、楽しかった」
止まらない涙をぬぐってくれる隼くんの指は、どこまでも優しい。
「これからは、また、友だちに戻ろうね」
乱れた服を整えようとしてくれた、そのとき。
玄関で大きな物音がして、そこからは息を飲む暇もなくて。荒々しく開かれたドアから現れたのは、スーツ姿の駿河くんだった。
どうして?お仕事に行ってたはずなのに。
「おじゃましてまーす……」
おどけようとした隼くんの声が、静けさに消える。
「……離れなさい」
体の芯にひびいてくる低い声。勝手に肩がビクッと揺れる。隼くんは、ゆっくりとベッドから立ち上がった。
駿河くんは凍りついたように無表情で、「あの」と口を開こうとした隼くんに「出て行け」と言った。
「俺、後ろめたいことはひとつもしてません」
堂々とした隼くんに、駿河くんはもう一度「出て行け」と繰り返す。
喉がカラカラに乾いて声が出ない。
隼くんは、振り返ることなく行ってしまった。