ぼくたちは一生懸命な恋をしている
窓の外がすっかり暗くなった頃、両手にコンビニの袋を抱えたかなでが、ひょっこりと現れた。お仕事を終えてすぐに駆けつけたみたい。

「みんな慌てて何も用意してないだろうから買ってってやれ、って母さんから連絡きたんだ。ズバリお見通しだったな。ほら、好きなの食べていいぞ」

テーブルにお弁当をならべながら得意げなかなでに、私も駿河くんもびっくりした。だって、あんなに丈司お兄ちゃんのこと怒ってたのに。
最近のかなではトゲがなくなって、言葉遣いも優しくなった。何か変わるきっかけがあったのかもしれない。家族が仲良しに戻れるなら、それが一番嬉しい。

「母さんたち、正月の帰国を予定より早めるんだって。初孫が楽しみすぎて仕事が手につかないってはしゃいで……って。なんか、お前ら距離近くね?」

「えっ?」

言われて気づいた。私と駿河くん、隙間なくぴったり寄り添ってる。

「へぇ。ま、いいけど」

かなではニヤリと笑って向かいのソファに座った。私は恥ずかしくなって、少し駿河くんから離れたら、あからさまに残念そうな顔をされて、もっと恥ずかしくなった。

それから三人で夕食を食べはじめて、私のお弁当が半分くらいになったとき。

「なんか、泣き声がする!」

三つ目のお弁当を開けようとしてたかなでが、まっさきに反応した。たまらずに三人そろってお部屋を出る。ほんとだ、赤ちゃんが泣いてる。大きな大きな泣き声が聞こえる。しばらく廊下でそわそわしてたら、腕にすっぽりとおさまる大きさの白い布を抱いた看護師さんがやってきた。ほら、と駿河くんに背中を押されて、布のなかをのぞきこむ。
ちっちゃい、動いてる、ウソみたい!いろんな感想がいっせいにわいてきたけど、何より気になったのは。

「金髪だ!」

思わず口から出た驚きに、看護師さんが「先祖返りですよ」と教えてくれた。

「ハーフのお母さんだから、外国の血が強く出てるんでしょうね。たぶん、成長するにつれて髪は濃い色に変わってくると思いますよ」

すごい。そんなことってあるんだ。
元気な女の子。なにか食べてるみたいに小さなお口をむにゃむにゃ動かしてる。

「かわいい!マリアさんに似てるね!」

「今のところ丈司の要素がひとつも見当たらないな!」

はじめて見る生まれたばかりの赤ちゃんに、かなでと二人、たくさんはしゃいでしまった。
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