ぼくたちは一生懸命な恋をしている
入院してるお部屋のベッドに戻ってきたマリアさんは、疲れきったようすだけど、少し遅くなった夕食をもりもりと食べはじめた。元気そうでホッとしたよ。

「赤ちゃん私にそっくり。ご飯がおいしい。今日から仰向けで眠れる。私しあわせ」

「マリアぁ、ありがとう、ほんとがんばったなぁ」

丈司お兄ちゃんはマリアさんと一緒に、かなでが買ってきたお弁当を食べながら、ずっと泣いてる。泣きすぎてマリアさんにちょっとうざがられてる。

「大丈夫か、この夫婦」

かなでが心配してるのを、駿河くんが「この二人は、これでいいんだよ」って笑った。
そうだよ。丈司お兄ちゃんとマリアさんは、仲良しで素敵なぴったりの夫婦なんだ。

「かなで君。今日は、来てくれてありがとね」

マリアさんが、申し訳なさそうにはにかんだ。かなでのこと、ずっと気にしてたんだね。

「今までごめんなさい。これからは、困ったことがあったらオレも手伝うんで」

ぺこっと頭を下げたかなでを見て、丈司お兄ちゃんがますます泣き出してしまった。丈司お兄ちゃんも駿河くんも、大人になったら泣き虫になっちゃうのかもしれない。

お腹いっぱいになったマリアさんは、すぐに眠ってしまった。安心しきった寝顔。丈司お兄ちゃんはマリアさんに付き添ってここに泊まるみたい。もう遅いし、私たちはお家に帰ることにした。
それなのに、もう一度赤ちゃんに会いたくてガラスの向こうの新生児室をのぞきこんだら、なかなか離れられなくなっちゃった。小さなベッドの上でそれぞれ、そっくりな寝顔がいくつもならんでるけど、その中でキラキラ光る特別な金色の赤ちゃん。ずーっと見てても飽きない。ほんとに可愛い。
かなでは看護師さんたちにつかまって、おしゃべりしたり握手したりしてる。駿河くんは、ずっと隣にいてくれてる。
すやすや眠る小さな命は、丈司お兄ちゃんとマリアさんが愛し合った証。

「ねぇ、駿河くん」

「なぁに、あいちゃん」

「私も赤ちゃんほしい」

「え」

「駿河くんにそっくりな赤ちゃんだといいな。きっと男の子でも女の子でも、すっごく可愛いよ」

小さな服に小さな靴、どんなお部屋を用意してあげよう。頭の中は可愛いがいっぱいで大変だ。忘れちゃいけないから、ぜんぶ空想日記に書きとめておかないと。

「しあわせだねぇ」

微笑みかけると、駿河くんは頬を少し赤くして、ふにゃっと笑った。
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