ぼくたちは一生懸命な恋をしている
私は、家族のみんなが大好き。
お父さんは絵描きさん。毎日アトリエにこもりっきりで、そうかと思えば、たまにふっといなくなる。短いと数日、長いと数ヶ月。そして、ふらりと帰ってきて、私たちに抱えきれないほどのお土産をくれたら、またアトリエにこもる。あまり会えないけれど、会えたらめいっぱい可愛がってくれる、そんな優しいお父さん。
お母さんは、十代のころアイドルをしてたんだって。楽しいことばかりだったらしくて、今でも芸能界にお友だちがたくさんいる。だから私たち兄妹にも習い事感覚で芸能活動をさせてくれた。いつも笑顔で、マイペースで、料理はちょっと苦手。なによりもお父さんのことが大好き、そんなかわいいお母さん。
丈司お兄ちゃんは小さいころ子役としてテレビに出てたけど、中学生になると芸能活動はやめちゃった。サッカークラブの活動に専念したかったみたい。学生時代は勉強にスポーツ、なんでも駿河くんと競い合ってたのをよく覚えてる。正義感が強くて面倒見がいい丈司お兄ちゃんは、大人になって塾の先生になった。
かなでは、お母さんに似てキラキラしてて、芸能界で活躍する人気者。頭が良くて、スポーツもできる。記憶力抜群で、台本はすぐに覚えちゃうし、歌も絵も上手で……褒めだしたらキリがない。かなでは才能のかたまりだ。私の前では、子どもっぽくてゲーム好きの食いしん坊なんだけど。
そして、私は……特別なことは何もない。ただの女の子。
かなでとは双子だけど、性別も違うし全然似てない。かなでは背が高くてすらっとしてるのに、私はあまり背が高くないし、いらないお肉がつきやすい体質なのが悩み。なんでも覚えるのに時間がかかるし、運動も苦手。慣れない人と話すのも得意じゃない。ただの女の子っていうか、ダメな女の子かもしれない。
思い出すのは、かなでと一緒に初めてチャイルドモデルのお仕事をしたとき。たぶん五歳くらいだったのかな。大きいカメラやまぶしい照明、知らない大人、私はいろんなものが怖くて撮影どころじゃなかった。昔から私は臆病だった。でもかなでは、たくさんの大人に囲まれても平気で、言われたとおりにいろんなポーズを次々と決めて、なにより可愛い笑顔を絶やさなくて、たくさん褒められてた。
ずっと泣いてた私を、お母さんは「こういうの苦手だったのね。無理させてごめんね。もうしなくていいから大丈夫よ」と慰めてくれたけど、かなではちゃんとできるんだから、できない私はダメな子なんだなって思った。それから、かなでにはいろんなお仕事が舞いこんで、お母さんはそれに付き添わなきゃいけないから、私は保育園にあずけられた。
寂しくなかった、といったら嘘になる。家族はみんな優しくて大好きだけど、ほんとはもっと一緒にいたかった。でも、かなでみたいに上手にできない私が悪いんだから、何も言えなかった。おとなしくしていたら、みんなが「いい子ね」って言ってくれる。そうやって褒めてもらえるようにがんばるのが精一杯だった。
保育園ではうまく友だちがつくれなくて、私はいつも一人、頭の中でいろんなお話を作った。もしも目が覚めてお家がケーキになってたら、もしも魔法が使えるようになったら……お話を考えるのは、とても楽しい。楽しいお話ばかり考えていられたのは、きっと駿河くんがいてくれたから。
お父さんは絵描きさん。毎日アトリエにこもりっきりで、そうかと思えば、たまにふっといなくなる。短いと数日、長いと数ヶ月。そして、ふらりと帰ってきて、私たちに抱えきれないほどのお土産をくれたら、またアトリエにこもる。あまり会えないけれど、会えたらめいっぱい可愛がってくれる、そんな優しいお父さん。
お母さんは、十代のころアイドルをしてたんだって。楽しいことばかりだったらしくて、今でも芸能界にお友だちがたくさんいる。だから私たち兄妹にも習い事感覚で芸能活動をさせてくれた。いつも笑顔で、マイペースで、料理はちょっと苦手。なによりもお父さんのことが大好き、そんなかわいいお母さん。
丈司お兄ちゃんは小さいころ子役としてテレビに出てたけど、中学生になると芸能活動はやめちゃった。サッカークラブの活動に専念したかったみたい。学生時代は勉強にスポーツ、なんでも駿河くんと競い合ってたのをよく覚えてる。正義感が強くて面倒見がいい丈司お兄ちゃんは、大人になって塾の先生になった。
かなでは、お母さんに似てキラキラしてて、芸能界で活躍する人気者。頭が良くて、スポーツもできる。記憶力抜群で、台本はすぐに覚えちゃうし、歌も絵も上手で……褒めだしたらキリがない。かなでは才能のかたまりだ。私の前では、子どもっぽくてゲーム好きの食いしん坊なんだけど。
そして、私は……特別なことは何もない。ただの女の子。
かなでとは双子だけど、性別も違うし全然似てない。かなでは背が高くてすらっとしてるのに、私はあまり背が高くないし、いらないお肉がつきやすい体質なのが悩み。なんでも覚えるのに時間がかかるし、運動も苦手。慣れない人と話すのも得意じゃない。ただの女の子っていうか、ダメな女の子かもしれない。
思い出すのは、かなでと一緒に初めてチャイルドモデルのお仕事をしたとき。たぶん五歳くらいだったのかな。大きいカメラやまぶしい照明、知らない大人、私はいろんなものが怖くて撮影どころじゃなかった。昔から私は臆病だった。でもかなでは、たくさんの大人に囲まれても平気で、言われたとおりにいろんなポーズを次々と決めて、なにより可愛い笑顔を絶やさなくて、たくさん褒められてた。
ずっと泣いてた私を、お母さんは「こういうの苦手だったのね。無理させてごめんね。もうしなくていいから大丈夫よ」と慰めてくれたけど、かなではちゃんとできるんだから、できない私はダメな子なんだなって思った。それから、かなでにはいろんなお仕事が舞いこんで、お母さんはそれに付き添わなきゃいけないから、私は保育園にあずけられた。
寂しくなかった、といったら嘘になる。家族はみんな優しくて大好きだけど、ほんとはもっと一緒にいたかった。でも、かなでみたいに上手にできない私が悪いんだから、何も言えなかった。おとなしくしていたら、みんなが「いい子ね」って言ってくれる。そうやって褒めてもらえるようにがんばるのが精一杯だった。
保育園ではうまく友だちがつくれなくて、私はいつも一人、頭の中でいろんなお話を作った。もしも目が覚めてお家がケーキになってたら、もしも魔法が使えるようになったら……お話を考えるのは、とても楽しい。楽しいお話ばかり考えていられたのは、きっと駿河くんがいてくれたから。