ぼくたちは一生懸命な恋をしている
「百瀬かなでさん、入られまーす!」
スタッフの声にスタジオ中の視線が集まる。腰を低く、元気よく。もはや習性のような「おはようございます!」を発しようとしたオレは。
ふと、かすかな光に目を奪われた。
天井は高いがさほど広くはないスタジオの真ん中。胸に抱えるカメラに視線を落とす横顔を、銀色にきらめくベールのような長い前髪がさらりと落ちて隠している。
見間違いじゃない。その人の髪は、噓のように美しく、でも偽物の匂いのしない、銀色だった。
小さく丸く形のいい頭を強調する癖のないそれは、うなじの低い位置でまとめられていて、そのまますんなりと背中まで伸びている。華奢な肩、七分の長さまでたくし上げられた袖からのぞく腕は、血の通わない人形のように白くて、手折れそうなほど細い。
あまりに儚くて消えてしまいそうなその人が、ゆっくりと顔をあげた。雪の結晶と見紛う長く豊かなまつ毛にふちどられた瞳は、アメシストより淡い紫色。捕えられて、息さえ忘れる。
「はじめまして。宇佐美セイラです」
雪解けのようにほほえむ人。
まるで、そこにだけ色がついたように鮮やかに見えた。