ぼくたちは一生懸命な恋をしている
翌日、また中庭のベンチであいりちゃんと仲良くお弁当を広げていたところに、息を切らした秋山が乱入してきた。昨日の今日、案外早く見つけられてしまった。まぁ、私とあいりちゃんが急に仲良くなって周りがざわついているから、噂が耳に入るのは時間の問題だったか。

「ふたりだけズルいよ。なんで俺を誘ってくれないの?」

「だって、秋山はいつも学食でしょ。わざわざお弁当を用意させるのは忍びないから遠慮したのよ。ねぇ、あいりちゃん」

「うん。私たちに無理に合わせなくてもいいよ。隼くんはゆっくり学食でご飯食べて」

あいりちゃんの曇りのない目でそう言われて、私の意地悪をとがめることができなくなった秋山は、悔しそうに喉を鳴らした。

「……今日は購買でパン買ってきたから。ご飯を用意するのは苦じゃないから、俺のこともちゃんと誘って。じゃないと仲間はずれみたいでさびしいよ」

追いすがられて、良心が痛んだのだろう。あいりちゃんはすんなり秋山を受け入れた。部活をしていない秋山とあいりちゃんは毎日ふたりで下校しているらしいから、私ももう少しあいりちゃんを独り占めしたかったけれど、好意をことごとくスルーされてヤキモキする秋山を見るのも楽しみだったから、よしとする。

「ただし、秋山は座るなら地面ね。このベンチふたりしか座れないから」

「うわっ、あいかわらずかわいくない!」

また、つまらない言い争いが始まるはずだった。
ただ今までと違ったのは、私たちの間にあいりちゃんがいたこと。

「隼くん。円香ちゃんはかわいいよ?」

ほがらかな声に、すとん、と毒気が抜かれた。抜かれたことで、自分が毒気に満ちていたことに気づく。秋山も目が覚めたような顔をして取りつくろい始めた。

「……そ、そうだね。ごめんね、あいりちゃん」

「ううん。それより、隼くんがベンチを使って。私は地面でいいから」

「いやいやいや!あいりちゃんはそのままでいいよ!」

「でも」

「大丈夫、俺、地面が好きなんだ!」

地面が好きって何なのよ。でも、あいりちゃんは「そうなんだ」とあっさり納得した。芸術家って変わった人が多いと聞くから、きっと日常的に家族の突飛な言動に鍛えられてきたのだろう。懐が深い。私も見習わないと。

「これ、使いなさいよ」

秋山にハンカチを差し出す。直接コンクリートに座ったらせっかくの真新しい制服が傷んで、またおばさんの心労が増えてしまうから。
あいりちゃんの手前、秋山は怪訝そうにしながらもおとなしくハンカチを受け取った。

「ありがと」

ずいぶんと不貞腐れた言い方。でも、お礼を言われたのなんて何年ぶりのことだろう。
私たちは、いがみ合いすぎている。とりあえず、あいりちゃんの前だけでも言い争うのはやめよう。
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