ぼくたちは一生懸命な恋をしている
梅雨がやってきて、中庭ランチは当分おあずけになってしまった。ここ数日は、お昼休みになると隼くんがA組に来てくれて、三人で円香ちゃんの席を囲んでお弁当を食べることにしてる。

今日もお昼になって机とイスの準備をしてたら、廊下からにぎやかな笑い声が聞こえてきた。よく知ってる声。隼くんが女の子のグループとおしゃべりしてるみたい。隼くんは友だちが多くて、よく声をかけられててすごいなぁって思う。いつもたくさんの人のまんなかにいて、笑顔がキラキラしてて。

「隼くんって、かなでみたい」

三人そろって席に着いたところで、ついさっき思ったことを伝えたら、隼くんは胸をおさえて苦しそうに「うっ」とうめいた。

「トラウマを……えぐらないで……」

「とらうま?」

「大丈夫よ、あいりちゃん。私も、おう……こほん。かなでくんと秋山は似てると思う」

「もう、その話はやめよう。今日はこれを持ってきたんだ」

隼くんがおにぎりやお惣菜の入ったコンビニの袋から、何冊か雑誌を取り出した。

「じゃーん!夏休みの計画を立てよう!」

表紙を飾るきれいな山や海、楽しそうなテーマパークの風景、見るとぜんぶ旅行雑誌。

「ちょっと待って。旅行?誰と行くつもりなの?」

「この三人で行くつもりだけど。なぁに?遠野は行きたくないの?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「だったら、いいじゃん。別に俺はあいりちゃんと二人でもいいんだけどね」

あいりちゃんは、どう?と聞かれて我に返る。びっくりして固まっちゃってた。だって私、修学旅行以外に一度も旅行をしたことがない。
生まれてはじめての旅行に、お友だちと行けるなんて。

「ぜったい三人がいい!みんなで旅行したい!」

「そう言うと思ったよー。じゃあまずは、行きたいとこを探そう!」

雑誌を一冊、前のめりに受け取った。うれしすぎて、内容が頭に入ってこない。でも、この三人ならきっとどこに行っても楽しいよ。

「夏休みなんて、まだ先の話なのに」

呆れ顔の円香ちゃんも、手はお弁当そっちのけで雑誌をめくってる。

「なに言ってんの。夏休みはもう来月だよ。新幹線とか飛行機とかホテルとか、チケット取るなら早すぎってことないでしょ」

そっか。あと少しで夏休みがやってくるんだ。
なにを準備すればいいのかな。そうだ、駿河くんに報告しないと。まだなんにも決まってないのに、頭の中はもう夏休みでいっぱいだ。
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