ぼくたちは一生懸命な恋をしている
駿河くんは、忙しい私の家族の代わりに、いつも保育園までお迎えにきてくれた。そして、家族が帰ってくるまで一緒に遊んでくれた。ごっこ遊びにお散歩、お絵かきしたり、絵本を読んでくれたり、駿河くんは楽しいお話を作るヒントをたくさんくれた。小さいころの思い出は、駿河くんと一緒のものばかり。おかげで寂しかった時間より笑顔でいた時間のほうが強く記憶に残ってる。

駿河くんは、私のことをとても大切にしてくれた。
今の私は、駿河くんの優しさでできてる。
大袈裟じゃなく、そう思う。
気がついたら、もう好きになってた。

でも私が小学生になると、駿河くんはすぐに大学生になって、時間が経つにつれて一緒にいられる時間が少しずつ減っていって。

とうとう、駿河くんは就職して家を出て行ってしまった。

会いたいときに会えない。隣のお家に駿河くんがいない。それだけで私はいくらでも涙を流せた。それから駿河くんのおじさんとおばさんもお家の事情で遠くへ引っ越して、お隣は更地になってしまった。

二度と会えないわけじゃない。でも仕事が忙しくて疲れてる丈司お兄ちゃんを近くで見てると、きっと同じように忙しいはずの駿河くんに、私のわがままで「会いたい」なんて言えなくて。体調を気遣うメールを送ることすら、ためらって、なかなかできなかった。

会えないまま、好きな気持ちばかりを持て余したまま、時間だけが過ぎて。

私とかなでは義務教育を終えて、それを機にお父さんとお母さんは海外に移住した。二人の念願だったから、みんな大賛成。私は家事だけはできるし、かなでにはお母さんと縁の深い優秀なマネージャーさんがついてくれてる。それに、丈司お兄ちゃんがいるから何も心配いらない。三人で力を合わせれば大丈夫。笑顔でお父さんとお母さんを見送って、私とかなでは高校生になった、その矢先だった。


丈司お兄ちゃんが、結婚することになった。あいさつに来てくれたのは、びっくりするほど綺麗な人。名前はマリアさん。私は丈司お兄ちゃんに彼女がいたことすら知らなくて、突然のことに驚いたけれど、新しい家族ができるのは嬉しかった。もちろん、一緒に住むんだと思って疑いもしなかった。

でも、かなでは違った。マリアさんのお腹に赤ちゃんがいることを見抜いて、さらにマリアさんが十九歳の大学生だと聞いて、すごく怒った。マリアさんにではなくて、丈司お兄ちゃんに怒ってた。順番が違う、大人としても男としても最低だ、って。見たこともない強いその態度に、なにも言えなかった。私は二人が愛し合ってるならそれでいいと思ったけど、かなでは違った。丈司お兄ちゃんにとっての一番が自分じゃなくなってしまうのが寂しかったのかもしれない。かなでは、とても可愛がってもらってたから。

それからかなでは家出をして、三日も帰って来なかった。ずいぶん心配したのに、ひょっこりと戻ってきたと思ったら、急展開。
かなでは、駿河くんと一緒だった。
私は突然の再会に心臓が止まりかけた。どうして駿河くんが?状況を飲みこめなくて混乱する私の知らないところで、すでに大人たちの話し合いは終わってたみたい。

「今日は挨拶にきたんだよ。これから、あいちゃんとかなでは俺と一緒に暮らすことになったんだ」

よろしくね、と久しぶりに頭をなでられて、私は天にも昇る気持ちになった。
会えないあいだ、ずっと寂しかった。だけど、いつか必ず迎えに来てくれるって、信じてた。駿河くんは、ほんとに迎えに来てくれたんだ。

慣れない高校生活に右往左往しながら準備するのは大変だったけど、ゴールデンウィークにはお引っ越しが終わって、私と駿河くん、それからかなで、三人の生活が始まった。
< 4 / 115 >

この作品をシェア

pagetop