ぼくたちは一生懸命な恋をしている

１０．かなで

初めて恋をして知った。人の欲は底が知れない。
会いたい、もっと知りたい、もっと知ってほしい、認められたい、受け入れてほしい……きりがない。

好きだの嫌いだのと大騒ぎしている奴らは馬鹿みたいだと思っていた。今では共感せざるを得ない。恋愛はおおごとなのだ。オレは馬鹿になってしまった。つい浮かれて暴走しそうになる。今にもセイラのもとへ飛んで行きたい衝動を、必死にこらえている。こんな強い感情を知って、オレはあいりと駿河のことが心配になった。

あの二人は両思いだと、オレは当然のように思っていた。昔から、あいりは駿河にべったりで、駿河もあいりを特別に可愛がっている。二人が寄り添っている光景は、息をするのと同じくらい自然なものだ。

けれど、あの二人は平和すぎやしないだろうか。あいりは駿河と一緒にいられるだけでこれ以上ないほど幸せそうだし、駿河はあいりの前で意図的に清潔であろうとしすぎている。もちろん、あいりが未成年だということがブレーキになっていることは分かるのだが、それにしてもだ。オレがセイラを思うときの身もだえするような情熱を、二人からは感じられたことがない。

はたして、それは恋なのだろうか。

疑問がわいたとき、これから先もずっと共にあるはずだった二人の絆が、急にあやうく見えはじめた。駿河のことだから慎重に機を見ているのかもしれないが、あいりの鈍さにあぐらをかいていたら、横から掻っ攫われてしまうことだってあるかもしれないのに。どんなにもどかしくても、これは本人たちの問題だから、どうこうしろと口出しする気はないのだけれど、今のところは。

オレだったら、離れても会いに行くし、近くにいるならもっと求める。
チャンスをこまねいているだけなんて性に合わないから、オレは行動を起こした。次の撮影の企画会議に、急きょ参加させてもらうことにしたのだ。そこには編集部のスタッフやスタイリスト、そしてカメラマンがいる。相川さんは渋っていたが、いざ連絡してみれば編集部からはすんなりと許可が下りた。これでセイラに会える機会が増える。あわよくば、もっと増やしたい。

百瀬かなでに満足しない初めての人。思考が読めなくて、底が知れなくて、どうしたら満足してくれるのか見当もつかない。だったら、これまで築き上げてきたものを壊して捨て身で挑むしかない。