ぼくたちは一生懸命な恋をしている
会議はもとより平日の夕方からと決まっていた。オレは学校が終わるや否や、正門近くで待機してくれていた相川さんの車に飛び乗った。道中で「本気なの?」と聞かれたから迷いなく「本気です」と返したら、ため息のあと「くれぐれも後悔のない振る舞いをして」と言われた。釘を刺されたのと同時に、応援してもらったような気もするのは、オレの都合のいい勘違いではないはずだ。


初めて訪れた出版社の会議室。二つの長机とホワイトボードがあるだけでもう窮屈に感じる手狭なそこには、すでに五人の大人がいて、山のような資料を前に企画を練っている最中だった。
雑多な風景の中で、浮世離れした清廉な美貌にオレはまた釘付けになる。

「セイラ、今日も美人だね。あれから毎日会いたくてしかたなかったよ」

人前であることもいとわずに好意をさらけ出してみせると、大人たちに動揺が走ったのを感じた。相川さんは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。セイラだけが、揺るがないほほ笑みの表情のままオレと向き合っていた。

「なるほど、そうきましたか」

「セイラに認めてもらうには、今までのオレじゃダメみたいだから」

「あなたの言動は非常に興味深いのですが……いろんな方に迷惑をおかけするのは、わたしの本意ではありません」

「大丈夫だよ。オレは人に恵まれてるんだ」

ここには人の恋路を面白おかしく吹聴するような無粋な輩はいない。ぐるりと見渡せば、みんな困惑はしているけれど、悪意は感じない。

「いいんじゃないですか。かなで君は今まで良い子すぎたんですよ。うちはスタッフ一同、現場での出来事はすべて守秘義務の範囲内だという認識ですのでご安心を。部数を稼いでいただけるのなら、こちらとしては何も言うことはありません」

快く受け入れてくれたのは、前回の撮影でガッツポーズをしていた編集部の女性だ。商魂たくましい、まばゆい笑顔に、オレは「任せてください!」と白い歯を見せた。

「これはハードルが上がってしまいましたね」

「セイラも一緒に責任とってね」

「はいはい。さぁ、会議を続けますよ」

軽く流されても、構われることが嬉しい。オレは用意されていたパイプ椅子を無理矢理セイラの隣に移動させて座った。ほほ笑ましく見守りこそすれ、オレをとがめる人はいない。だから、相川さんはそんなに恐縮して方々に頭を下げなくてもいいのだ。
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