ぼくたちは一生懸命な恋をしている
前回の撮影でオレが思わぬ一面を引きずり出されたことで、企画の方向性は真っ二つに割れた。
初回記事が世に出るのは、およそ一ヶ月後。スタッフいわく「センセーショナル」なその記事を世間がどう受け取るのか、反応が分からないまま次の撮影に入らなければならない。批判的な意見が多かった場合を見越して安全策を取るべきか、このまま突き進むべきか。セイラは今のところ腕を組んで討論を静観している。

散々ネットで情報をあさって調べた。セイラは生まれも育ちも日本だが、人種的にはほとんど北欧系なのだそうだ。銀色の髪も、紫色の瞳も、透ける真っ白な肌も、すべて本物。ただ、彫りの深すぎないまろやかさのある顔立ちは、きっと日本人の血なのだと思う。たくさんの奇跡が重なって、この美しい人は生まれたのだ。
どんなふうに生きてきたのだろう。どんなことを考えているのだろう。全部知りたい。

セイラの手元には何十枚もの写真がある。きっと、セイラが撮りたいオレのイメージの参考になる資料だ。

「見てもいい?」

小声で尋ねると、完璧な横顔にかすかな思案の影がよぎったが、すぐに「どうぞ」と写真の束を寄こしてくれた。
一枚一枚丁寧に目を通す。モデル、衣装、シチュエーション、どれも統一感がなく、イメージがつかめない。追いかけるようにめくっていた手が、ある写真を見つけたところで止まった。

この男は見たことがある。よく知っている。セイラに出会って頭の隅に追いやられていたけれど、忘れたわけじゃない。

「いい写真でしょう?」

隣から聞こえた愛おしげな声に、喉が詰まって、鼓動が焦りだす。

「彼のこと気に入っていたのですけれど、最近めっきり姿を見なくなってしまって。寂しいんです。彼を撮るのは楽しかったのに。そういえば、あなた、舞台で彼と同じ役を演じてましたね」

すべてを見透かしたような瞳に背筋が凍る。
あのときのオレたちの会話は、互いの事務所さえ関知していないはずだ。オレは駿河以外に話していないし、誰に何を言われたこともない。もしセイラが知っているのだとしたら。

「あの人が何を言ったの」

押し殺しきれない動揺がにじんだ問いに、血色の儚い唇が笑みを深めた。

「何も言われていませんよ。どうしたんですか?わたしは、彼の露出が減ったのはあの舞台のあとからだったことを思い出しただけですが」

謀られた。気づいたときには後の祭りだ。

「違うんだ、あれは……」

「あなたは、弁解したくなるような後ろめたいことをした。それだけ分かれば充分です」

セイラは動かないオレの手元から例の写真をするりと抜き取って、また喧々囂々とする会議に視線を戻した。
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