ぼくたちは一生懸命な恋をしている
11.隼

『旅行はダメだって叱られました。だから行けません。ごめんなさい。』

そんなメッセージが届いたのは、土曜日の夕方のことだった。
あいりちゃんから連絡をくれるなんて初めてで、喜び勇んでスマホに飛びついたのに、こんな内容でがっかりする。叱られたって、簡単に想像ができるよ。駿河君から反対されたんだね。男と一緒に旅行なんて許しません!って感じでしょ。超過保護だもんね、駿河君。知ってる、毎日学校の帰りにすごいエピソードたくさん聞いてるから。あわよくばって思ってたけど、やっぱダメだったかぁ。

どう返事をしようかな、と考えて、いいことを思いついた。あいりちゃんは、あきらかに落ちこんでる。相談に乗ってあげるって口実で呼び出したら、デートできちゃうんじゃない?親密度アップの大チャンスだ。
ちょうど明日は日曜日。心配してるって全面に押し出した文章でお誘いしたら、もれなくOKをいただきました。よーし、めいっぱいなぐさめてあげるからね!


待ち合わせは、あいりちゃんが住んでるマンションの最寄り駅の近くにあるコーヒーショップ。女の子を待たせるわけにはいかないから、予定より三十分早く来た。休日の午後、学生が多くて騒がしい店内を見渡して、あいりちゃんの姿がないことを確認。あまいカフェオレを買って、窓際の席を確保して、ガラス越しに外を眺める。くもりだけど雨が降らなくてよかった。

気長に構えていたのに、早々に待ち人来たる。おさげと眼鏡はいつもどおりだけど、白いひざ丈ワンピースにネイビーのカーディガンを羽織ったあいりちゃんが、おずおずと店内をのぞきこんでいるのを見つけて、俺は立ち上がった。私服すっごくカワイイね!と褒めたかったのに、目元が赤いのに気がついて、それどころじゃなくなった。絶対に泣きはらした顔だ。旅行がダメになったのがそんなに悲しかったの?
俺に気づいたあいりちゃんは、やっと安心したようにはにかんで入店してきた。

「隼くん、ごめんね。待たせちゃった?」

「全然。今日は来てくれてありがとね。とりあえず飲み物買っておいで」

カウンターを指さしても、いまいちピンと来ていないような顔。

「もしかして、こういう店はじめて?」

「私、コーヒーが飲めなくって……ごめんなさい」

元気がない。いつも控えめなのに、ますます輪をかけて自信なさげだ。俺はあいりちゃんを座らせると、好みを確認してからキャラメル味のホットミルクを買ってあげた。弱ってるときは温かいものがいいからね。
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