ぼくたちは一生懸命な恋をしている
少し泣いたあいりちゃんが落ち着くのを待って、コーヒーショップを出た。

「恋人って、なにをすればいいの?」

まっさらな心を透かしたみたいに無邪気な質問。付き合いはじめて、甘えた目ですり寄ってこない女の子ははじめてだ。当然だよね。あいりちゃんは俺のこと好きじゃないんだから。

「そうだなぁ。いろんなところに出かけたり、買い物したり、記念日をお祝いしたり……とにかく、一緒にいて楽しければ、なんでもいいんだよ」

その小さな手を取って歩き出せば、眉を下げて笑ってくれるあいりちゃんが、今まででよりもっとかわいく見える。
やり方は卑怯だったかもしれない。でも、あいりちゃんに伝えた言葉に嘘はひとつもないよ。大切にしたい。いろんなことを教えてあげたい。本気でそう思ってるんだ。


それから俺たちは、あいりちゃんが行きたい場所をめぐった。雑貨屋、本屋、公園、なんの変哲もない場所で喜ぶあいりちゃんを、俺は見守ってた。時計は見なかった。いつでも帰してあげるつもりはあったけど、あいりちゃんが言い出さない限りは付き合おうと思ってたから。これまでの分を取り返そうとするなら、ちょっとくらい遅くなってもまだまだ足りないよ。ただ、今話題のファンタジー映画を観て外へ出たら、すっかり夜になってて、さすがにもう帰ろうってことになった。

「夜の街って、こんなにキレイなんだね」

うっとりと景色をながめながら歩くあいりちゃんは、きっと日常を忘れてる。だから、マンションの前でたたずむ人影を見つけたとき、現実に引き戻されたんだろうね。ずっと繋いで馴染んでた手が離れていった。

「駿河くん……」
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