ぼくたちは一生懸命な恋をしている
13.あいり
世界が崩れてく音がした。
私は子どもで、駿河くんは大人。
子どもと大人は恋をしちゃいけないんだ。
隼くんに言われて、はじめて考えた。人からどう見られるのかってこと。もし私と駿河くんが手をつないで歩いてたら、どうだろうって。想像して、がっかりした。まるでちぐはぐなことに気づいたから。駿河くんの隣には、背が高くて綺麗な大人の女の人が似合う。悲しくてたまらないけど、それが現実だった。
駿河くんは、かっこいい。誰だって好きになるに決まってる。駿河くんは、いろんな人を選べるんだ。私が知らないだけで、駿河くんには素敵な恋人がいたのかも。もしかしたら、今だって。仕事が立てこんでるからって土日も家をあけることが多いのは、そういうことだったの?
駿河くんは、優しい。優しすぎる。ずっと私の面倒をみて可愛がってくれてた。恋人がいる素振りなんて一度も見せたことなかった。私のために、駿河くんは自分を犠牲にしてたのかもしれない。それなのに私は、なんにも気づかずに自分のことしか考えてなくて、夢をみてばかりで。
そう、私は夢をみてたんだ。駿河くんと、これからもずっと一緒にいられるって夢を。
夢はいつかさめる。それが、今だった。
駿河くんにとって、私はなんなんだろう。わずらわしい子どもだと思われるのは嫌だ。ちゃんといい子にならないと。いい子なら、きっと立場をわきまえずに大人に恋をしたりしないはず。私は、諦めなきゃいけない。でも、ずっとこの恋と一緒に生きてきたから、諦めかたがわからない。駿河くんに恋してない感覚がわからない。
不安で押しつぶされそうな私に、隼くんは寄り添ってくれた。はげましてくれた。いろんなところに行ったけど、手をつないでる私たちを変な目で見てくる人はいなかった。隼くんの隣なら、許してもらえるんだ。
隼くんは、いい人。ドジをして連絡に気づかなかった私が怒られないようにかばってくれた。私のために頭を下げてくれた。だから駿河くんは私と隼くんが恋人になるのを許してくれた。
反対、しなかったんだ。
私は恋をしてるから、駿河くんに恋人がいたらって考えると、すごくつらかった。でも駿河くんは、私に恋人ができても、今までと変わらなかった。それが、答え。
嫌われたわけじゃない。離ればなれになるわけでもない。それなのに、悲しくて、つらくて、寂しくて、生きてることさえ苦しくなって。ベッドの中で泣いてるとき受け取った隼くんからのメッセージは、一筋の光に見えた。
『あいりちゃんのこと大好きだよ。これからずっと一緒にいようね』
こんな私を好きだと言ってくれる人がいる。そう思うと心があたたかくなって息ができた。どんなにつらくても生きられそうな気がした。
毎日は続いてく。
私は家事をして、学校でお勉強して、円香ちゃんと笑って、隼くんとデートして、ときどき泣きたくなりながら過ごしてる。駿河くんは、変わらず私の作ったご飯をおいしいって褒めてくれる。かなでは、よくため息をついてる。
なぜか学校で、いろんな人から「おめでとう」って声をかけられるようになった。不思議だったけど、隼くんと恋人になるのは正しかったんだって証拠なんだと思う。
世界は変わってしまった。
気持ちの整理なんてできる気がしないけど、私も変わっていかなきゃいけないんだ。