ぼくたちは一生懸命な恋をしている
梅雨が明けて、すっかり夏めいてきた今日この頃。
『もし今度の土曜日あいてるなら、ちょっと付き合ってくれない?』
そうマリアさんに誘われて、二人でお買い物に行くことになった。
待ち合わせの駅で見つけたマリアさんは、私じゃぜったいに入らない細いズボンをはいててスタイルがよくて、見とれているうちにマリアさんも私に気づいてくれた。会うのはお祝いのとき以来。
「久しぶりー!今日は付き合ってもらっちゃってごめんね」
「いえ、マリアさんに会いたかったので嬉しいです」
「もー、我が妹がこんなにも可愛い!」
抱きつかれて、いい匂いに包まれる。そっか、私はマリアさんの妹なんだ。じゃあ、私もお姉ちゃんって呼んでいいかな。言おうとして、やっぱりちょっと照れるからやめた。
「あの、今日は何を買うんですか?」
「んー、とくに目的はないの。ごめんね。あいりちゃんとデートがしたかっただけ」
はじめて会ったときが嘘みたいに、マリアさんが元気に笑ってくれる。どんなにもとから綺麗な人でも、悲しい顔より笑顔の方がもっと綺麗。
オシャレなお店を、マリアさんはたくさん知ってた。あれが欲しい、これは使えそう、と手あたり次第に商品を指さすのに、結局マリアさんが買ったのは私にプレゼントしてくれたハートの形のキーホルダーだけだった。
「この前お祝いしてくれたお礼ね。こんなんじゃ足りないけど」
「とんでもないです!ありがとうございます、大切にします!」
「おう、じゃんじゃん使って!はー、けっこう歩いたね。そろそろお昼にしよっか。あいりちゃんは何食べたい?」
「うーん、人が作ってくれたのならなんでも」
「……あいりちゃんってJKなのに主婦みがカンストしてるよね」
「え?」
「わかった、私の好きなお店に行こ!」
そうしてマリアさんに手を引かれてやって来たのは地下にある喫茶店。くすんだオレンジ色の壁紙に歴史を感じる。
「安いのに、なかなか味がいいのよ、ここ」
四人掛けの席に向かい合って腰を下ろしたとき、ふと気がついた。マリアさんが肩から下ろしたバッグに、雰囲気の違うアクセサリーがついてる。よく見てみると、それはマタニティマークだった。
知ってたはずなのにびっくりしてしまった。だってマリアさんのスタイルがあまりに良すぎて、お腹が膨らんだ姿が想像できない。でも、マリアさんのお腹の中には今、たしかに赤ちゃんがいるんだ。マリアさんと、丈司お兄ちゃんの、赤ちゃん。
不思議な気持ちになって、ついたずねてしまった。
「どうして、丈司お兄ちゃんだったんですか?」
こんな質問、自分でも急だなと思ったんだから、マリアさんはもっと驚いたと思う。でも、笑うことも嫌な顔をすることもなく、まばたき三つ分考えて。
「『割れ鍋に綴じ蓋』、ってやつかなぁ」
頬杖をついて、ふんわりと笑って、マリアさんは言った。
「私にぴったりなのよ、あなたのお兄ちゃんは」
左手の薬指で指輪がキラリと光ってる。
ぴったり。
そっか。ぴったりなんだ。
この言葉が、胸の奥にじんわりしみて、痛かった。
『もし今度の土曜日あいてるなら、ちょっと付き合ってくれない?』
そうマリアさんに誘われて、二人でお買い物に行くことになった。
待ち合わせの駅で見つけたマリアさんは、私じゃぜったいに入らない細いズボンをはいててスタイルがよくて、見とれているうちにマリアさんも私に気づいてくれた。会うのはお祝いのとき以来。
「久しぶりー!今日は付き合ってもらっちゃってごめんね」
「いえ、マリアさんに会いたかったので嬉しいです」
「もー、我が妹がこんなにも可愛い!」
抱きつかれて、いい匂いに包まれる。そっか、私はマリアさんの妹なんだ。じゃあ、私もお姉ちゃんって呼んでいいかな。言おうとして、やっぱりちょっと照れるからやめた。
「あの、今日は何を買うんですか?」
「んー、とくに目的はないの。ごめんね。あいりちゃんとデートがしたかっただけ」
はじめて会ったときが嘘みたいに、マリアさんが元気に笑ってくれる。どんなにもとから綺麗な人でも、悲しい顔より笑顔の方がもっと綺麗。
オシャレなお店を、マリアさんはたくさん知ってた。あれが欲しい、これは使えそう、と手あたり次第に商品を指さすのに、結局マリアさんが買ったのは私にプレゼントしてくれたハートの形のキーホルダーだけだった。
「この前お祝いしてくれたお礼ね。こんなんじゃ足りないけど」
「とんでもないです!ありがとうございます、大切にします!」
「おう、じゃんじゃん使って!はー、けっこう歩いたね。そろそろお昼にしよっか。あいりちゃんは何食べたい?」
「うーん、人が作ってくれたのならなんでも」
「……あいりちゃんってJKなのに主婦みがカンストしてるよね」
「え?」
「わかった、私の好きなお店に行こ!」
そうしてマリアさんに手を引かれてやって来たのは地下にある喫茶店。くすんだオレンジ色の壁紙に歴史を感じる。
「安いのに、なかなか味がいいのよ、ここ」
四人掛けの席に向かい合って腰を下ろしたとき、ふと気がついた。マリアさんが肩から下ろしたバッグに、雰囲気の違うアクセサリーがついてる。よく見てみると、それはマタニティマークだった。
知ってたはずなのにびっくりしてしまった。だってマリアさんのスタイルがあまりに良すぎて、お腹が膨らんだ姿が想像できない。でも、マリアさんのお腹の中には今、たしかに赤ちゃんがいるんだ。マリアさんと、丈司お兄ちゃんの、赤ちゃん。
不思議な気持ちになって、ついたずねてしまった。
「どうして、丈司お兄ちゃんだったんですか?」
こんな質問、自分でも急だなと思ったんだから、マリアさんはもっと驚いたと思う。でも、笑うことも嫌な顔をすることもなく、まばたき三つ分考えて。
「『割れ鍋に綴じ蓋』、ってやつかなぁ」
頬杖をついて、ふんわりと笑って、マリアさんは言った。
「私にぴったりなのよ、あなたのお兄ちゃんは」
左手の薬指で指輪がキラリと光ってる。
ぴったり。
そっか。ぴったりなんだ。
この言葉が、胸の奥にじんわりしみて、痛かった。