ぼくたちは一生懸命な恋をしている
マリアさんはグラタン、私はナポリタン。
注文すると、開けたカウンターの中でコックさんが料理をはじめた。手元までよく見える。

「わぁ、鉄のフライパンだ。火が強い!」

「ほんと見るところが主婦よね。そうだ、せっかくなんだからリアルJKの恋バナ聞かせてよ!」

目をキラキラさせたマリアさんにおねだりされた。恋の話かぁ。

「高校に入ってできた友だちと、ちょっと前に恋人になったんですけど、」

「えっ、駿河君じゃないの?」

心底意外そうに言われて、ヒヤッとする。どうして?私、駿河くんのことなんて一言も言ってないのに。

「だって、子どもと大人は恋しちゃダメなんでしょう?」

「おっと……それを言われると立場がないけど……そうね。そうよね」

腕を組んで、マリアさんはしばらくうんうんと何か考えてた。

「そっかぁ、あいりちゃんカレシいるんだ。やるじゃん。どんな子なの?告白したのはどっちから?」

次々と尽きない質問に、ひとつひとつ答えてく。話の流れで駿河くんの名前も出てきたけど、ほんとの気持ちは言わなかった。言えるわけない。

お料理が運ばれてきた。熱々のパスタやマカロニをふうふうしながら、話はつづく。

「結局、旅行を反対されたのが付き合うきっかけになったわけね」

「そうなんです。男の子と一緒はダメだ、って」

「ふぅん。あいりちゃんは、まだ旅行したいと思ってるの?」

「はい。でも、わがままは言えないから……」

「んー。私ね、思いついたんだけど」

こんがりこげた糸引くチーズが上手に口の中におさめられていく。それがもぐもぐと飲みこまれるまで、私はフォークにパスタを巻きつけながら待った。

「旅行、私が付き添えばよくない?それなら駿河君も文句いわないでしょ」

それは願ってもない提案。

「いいんですか!?」

「赤ちゃんが産まれたら慌ただしくなるから、その前に私も遊んでおきたかったのよね。あいりちゃんのカレシにも会いたいし。あ、丈司も連れて行こうかしら。運転させれば交通費が浮くわ」

名案でしょ、とフォークを置いたマリアさんは、スマホを取り出してメッセージを入力しはじめた。

「よし、送信っと」

「あの……誰に?」

「駿河君。この人の許しがなきゃ話が進まないでしょ」

そうだけど。いきなりのことで気持ちが追いつかない。また怒られたら、どうしよう。
ぐるぐると不安になってたら、すぐに着信音が鳴った。メッセージを確認したマリアさんが、ぶふっ、と噴き出す。

「駿河君も一緒に行くってよ」

「えっ」

「おもしろくなってきたわぁ」

鼻歌さえ歌いだしそうなマリアさんを前に、私はしばらくあ然としてた。
< 54 / 115 >

この作品をシェア

pagetop