ぼくたちは一生懸命な恋をしている
三回目の撮影の打ち合わせは、学生であるオレへの配慮で日曜日に行われることになった。
相川さんが他のタレントのマネジメントでどうしても付き添えないとのことで、オレは一人で出版社へやって来た。絶対にちやほや褒められる。当然だと誇っていた扱いが、こんな苦痛に転じることもあるとは、嬉しくない発見だ。
重い足を引きずって会議室のドアを開けると、なぜかそこにはセイラしかいなかった。壁の時計を確認する。もうすぐ十二時、時間通りのはずだ。到着はオレが一番最後だと思っていたのに。

「……ほかの人は?」

「本当は十三時からなんです、今日の打ち合わせ。マネージャーさんにお願いして、あなたには早い時間を伝えていただきました」

「どうして」

「まぁ、ひとまず座ってください」

セイラがパイプ椅子の背を引いてくれたから、そこに座る。テーブルにはたくさんの資料にまぎれてオレの好きな炭酸飲料が置かれている……まるでオレを待ってくれていたかのように。

「いじめすぎたかなって、反省してるんです。思えばまだ一度も、きちんと向き合えていなかったのに。だから今日は、話をしませんか」

あんなに憂鬱だったのに、思いがけないこの状況に気分が上がってしまう。オレはつくづく現金なヤツだ。しかたない。セイラがこんなにも美しいのがいけないのだ。


「セイラは、あの原稿のオレをどう思ってるの?」

単刀直入に尋ねれば。

「へたくそですね」

すがすがしい答え。嬉しかった。初めて正当な評価をもらえた。

「だよね?ほんとは悔しいからあんまり言いたくないけど。すっげぇヘタクソだったよね?」

「えぇ。誤魔化すこちらの身にもなってほしいくらいです」

「じゃあ、どうしてみんなオレを褒めるの?けなしてもらったほうが、よっぽどよかった。あんな仕事を褒められるなら今まで完璧な仕事をして得てきたものは何だったのか、わからなくなる。それとも、オレの仕事なんてどうでもいいの?オレの評価って、周りの人の頑張りを横取りしてただけ?」

弱音が、するすると口からこぼれていく。オレは自分が思っているより参っていたようだ。こんなヘビーな相談、セイラは困るだろう。まだ数えるほどしか会ったことがないのだ。ましてやオレのことなど嫌っているかもしれない。なのに、どうしても止められない。

すがるように見つめれば、いつも冷たい印象のあったほほ笑みに、ほんのわずか熱がさした気がした。

「あなたは本当に不器用なんですね」
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