ぼくたちは一生懸命な恋をしている
不器用。
オレを表現するときに、そんな単語を使われたことがあっただろうか。

セイラは、ふふ、と笑う。

「なぜ、不出来なあなたをみんなが褒めてくれるのか?そんなの魅力的だからに決まってるじゃないですか」

すらりと伸びた手が、テーブルに積み上げられた雑誌を一冊取り上げた。例の雑誌だ。ページをめくる手が止まった、そこに載っている写真をオレは見たくないのに、セイラは嬉しそうに見せてくる。

「あの日、わたし言ったでしょ?媚びた作り笑顔より、年相応に本音をつくろえない表情のほうが、うんと魅力的でしたって。ねぇ、かなで。ほとんどの人は、モデルのセオリーやテクニックなんて分からないんです。もちろんモデルの立場であればそれは妥協してはいけないところですが。雑誌を手に取るお客様の多くは、ただ見たままを、素敵だとか変だとか、素直に感じているだけなんです」

何を思ったとしても受け手の自由なのは分かる、でも。

「ダメなものが完璧なものより喜ばれるなんておかしいよ」

「そこですよ、かなで」

「……なに?」

「あなたの価値観、つまらなくて気の毒になってきました。このままでは、あなたがここでつぶれなくとも、世間に飽きられるのは時間の問題ですね」

しなだれるように右手で頭を抱えたセイラは、大仰に息をついてみせた。

「あの舞台の……隆臣くんの話をしましょうか」

血の気が引く。
筧 隆臣――それが「兄貴」と呼んでいた人の名前だった。
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