ぼくたちは一生懸命な恋をしている
駿河くんへの想いを諦めきれないまま、隼くんの優しさに支えられて、秋になった。

夏休みの旅行以来、隼くんとマリアさんは仲良くなって、お腹の目立ちはじめたマリアさんのために、私と隼くんは一緒に家事のお手伝いをするようになった。丈司お兄ちゃんは新しいお仕事にくわえてアルバイトもしてるみたいで大変そう。

「丈司に甲斐性がなくても、家族に恵まれてるから私は幸せよ。こんなに可愛い妹ができて、ほんとに幸せ」

「可愛い妹の彼氏もイケメンで将来有望ですし!」

「私アンタみたいな調子のいい男は基本苦手なのよね。ま、せいぜい励みなさい。あいりちゃんを泣かせない限りは嫌いにならないであげる」

「じゃあお姉さんは一生、俺のこと好きですね!」

「嫌いじゃないだけで好きとは一言も言ってない」

お買い物から帰ってきて、三人でお茶の時間。
家族と住みなれたリビングに、いま私は住んでなくて、かわりにマリアさんと隼くんがくつろいでる。いろんなことがどんどん変わってくのに、私だけ長年の恋心に縛られて置き去りみたい。

お昼の情報番組。結婚についての街頭インタビューに、お母さんと同い年くらいの女の人が答えてる。

『後悔しかないわよ。夫になる人間は、もっと慎重に選べばよかった。若気の至りで、勢いだけで結婚しちゃって。よくある話だけどね、あのときは、この人しかいないと舞い上がってたのよ。恋なんてそのうち冷めるのに、馬鹿だったわ』

恋なんてそのうち冷める?
本当かな。いつか、この気持ちから解放されて楽になれる日が来る?

「ほんと、勢いだけじゃダメよ。まあ、勢いも大事なんだけど」

「お姉さんが言うと説得力が違いますね!」

「それ、どういう意味?」

後ろめたいことなんてなにもなく、隼くんを選んでよかったと思う日が、来るのかな。
来てほしい……できるだけ、はやく。


お家に帰った私は、大切に書き溜めてた空想日記をぜんぶ段ボールに詰めて、部屋のすみっこに追いやった。
駿河くんへの想いをつづってきたノート。夢ばかり詰まってるノート。でも私は夢からさめた。こんなどうしようもない想いは捨ててしまわなくちゃ。

もらった日から欠かさずつけてるネックレスに触れる。
私には、隼くんがいる。
だから大丈夫。
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