ぼくたちは一生懸命な恋をしている
19.隼
今日は、あいりちゃんと恋人になって四ヶ月目の記念日。
記念日にはプリクラを撮ったり、手紙を書いたり、なにかしらお祝いしてて、今回はカフェでケーキを食べることにした。オレとあいりちゃん、ついでに遠野と一緒にお祝いしてる、このシュールな図。
恋人たちのあまい空間に遠野がまぎれこんでるのは、もうどうしようもない。あいりちゃんが、そう望むから。いつになったらふたりきりになりたいって言ってくれるのかなぁ。言ってくれないんだったら、早く遠野が気まずさに耐えられなくなってくれればいいのに。
いや、その線も望み薄かも。

「あいりちゃん、クリームがついてるわ」

「えっ?どこ?」

「口の横。右のほう……あぁ、取ってあげるわ。ほら」

「んっ……えへへ、ありがとう」

それ!ほっぺについたクリーム取ってあげるイベント!俺がやりたかったのに!よくも目の前で堂々と彼氏の役得を横取りしてくれたな。

「お前、すごいわ。すごすぎて逆に尊敬する。面の皮何センチあるのか測らせてよマジで」

「早いもの勝ちよ。ぼうっとしてる秋山が悪いんじゃない?」

かわいくない、ほんとムカつく。でも、これ以上言い合うとあいりちゃんが心配するから我慢する。
そう、我慢だ。あいりちゃんは天然記念物みたいなものだから、じっくり気長に大切にしていかなきゃいけない。あいりちゃんのために遠野を受け入れると、自分で決めたじゃないか。
こんなに、こんなに大切にしてるのに。

「隼くん、ありがとう。とってもおいしかったよ!私もなにかお返ししないとなぁ」

「気にしなくていいのに」

「ううん。欲しいものがあったら、なんでも言って。昨日おこづかいもらったばかりだから大丈夫」

そう言って、さりげなく俺がプレゼントしたネックレスに触れる、そのしぐさがはじめはうれしかった。だけど、気づいたんだ。ネックレスに触れるとき、あいりちゃんは駿河君のことを思ってる。今だって、おこづかいをくれたのが駿河君だったから思い出したんだ。彼への気持ちを、俺の存在で必死に上書きしようとしてるんでしょ。無意識に残酷なことするよね。

そんなに駿河君のほうがいい?俺もかなりがんばってるつもりなんだけど、まだ足りないかな。いや、足りないならもっとがんばるよ。がんばるけどさ。
片思いって、けっこうキツいね。

「なんでもいいの?それじゃあ、あいりちゃんが作ったお弁当が食べたい!」

あーあ。こんなことしか言えない。
ほんとになんでもいいのなら、駿河君への思いを捨てて、俺を好きになってほしいよ。
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