ぼくたちは一生懸命な恋をしている
20.円香
秋晴れの学園祭、西棟のはずれ、書道クラブの作品が展示されているだけのがらんとしたセミナー室。
模擬店の喧騒や軽音楽部のライブで盛り上がる歓声を遠くに、私はひっそりと告白された。

制服のシャツのボタンを上まできっちりと締めた実直そうな印象の彼は、きっとその立派な体格を生かして何かスポーツをしているのだろうけれど、実際に何部に所属しているのかは知らない。知っているのは、彼が私と同じ教室で毎日授業を受けているということだけ。会話をするのだって、今日が初めてだったのに。

彼は私のことを「好きだ」と言った。

青天の霹靂。自分が他人の恋愛対象になるという事実に、私は衝撃を受けた。
どうして私なの?
こんな、魅力のない体の、どこを気に入ったというの?
口を開けば可愛くない言葉ばかり吐く女らしさの欠けた私の、どこがいいの?
疑問であふれ返る脳内を無視して、この喉は勝手に震えていた。

「……ごめんなさい」

何も考えずに返事をしてしまった自分自身に驚く。彼は、大きな拳を強く握って、悔しそうに視線を落とした。

「遠野さんにも、好きな人が?」

素直にうなずくのは、ひどく勇気のいることだった。真っ直ぐな彼の前にさらけ出すには、私の恋はあまりにも恥ずかしくて、情けなくて、うしろめたかった。
泥のような感情を飲みこみながらうなずいた私は、彼にどう映ったのだろう。

彼は深呼吸をして、「分かった」と言った。

「俺は、もし付き合えたなら遠野さんを大事にしたいと思ってた。好きになった人を幸せにしたかった。俺にそれが許されないなら、代わりに、必ず幸せになると約束してほしい」

傷ついているのが分かる表情だった。なのに、その言葉は優しくて、あまりにも優しくて、私は呆然としてしまう。
恋心を秘めておけば、失恋は私の心の中だけの出来事で、現実にはならない。だから嘘をつき続けて生きてきた。
彼は、すごい。きちんと気持ちを伝えてくれた。私の醜い心持ちのせいで彼が報われないなんて、あっちゃいけない。

「約束、します」

やっとの思いでしぼり出した返事に、彼は寂しそうに笑った。
あぁ、私はまた、嘘をついた。
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