ぼくたちは一生懸命な恋をしている
21.あいり
お洗濯物がよく乾きそうな気持ちのいい日曜日の朝。
ずっとお仕事で忙しそうにしてた駿河くんが、今日はお家にいる。もしかして、夏休みの旅行のとき以外ではじめてお休みが一緒になったかもしれない。

かなでは、朝ご飯をもくもくと食べてから、キリっとした顔でお仕事に行った。
最近、よくお部屋にこもってることが多いかなで。個展を開く準備をしてるんだって。今までになくがんばってるその姿を、勉強を教えてもらうのを控えて、陰ながら応援してる。

かなでが忙しいのにくわえて、駿河くんの帰りが遅くなることも前より増えて、私はお家で一人ぼっちの時間が多くなった。寂しいけど、少しほっとしてる。一人でいれば、空想日記を書く時間が増える。隼くんや円香ちゃんと過ごす楽しい時間を物語にしてると、つらいことを考えないでいられるから。

まだ私は、部屋のすみに追いやった段ボールを捨てられない。
駿河くんのことを考えると、胸が、痛い。
そんなとき、隼くんにもらったネックレスに触れるのが癖になってしまった。そうすると、安心できて痛みがおさまる気がするの。かならず助けてくれるから、お風呂と寝るとき以外は必ず身につけてる。

思いがけない二人きりの休日。きっとこりずに駿河くんへの好きを見つけてしまうんだろうけど、それはぜんぶ拾い上げずにつぶしてしまわないといけない。その痛みを我慢する勇気をもらうために、私はまたネックレスに触れる。

駿河くんは、お仕事で疲れてるはずなのに家中のお掃除を手伝ってくれた。たくさんのやさしさに触れて、何度首元に手が伸びたかわからない。お昼には「いつもお世話になってるから」って、おいしいカルボナーラを作ってくれて、そのとき冷蔵庫の中が寂しいことに気づいたみたいで、食べ終わったら買い出しに行こうと誘われた。

駿河くんと二人で出かけるのは、ほんとに久しぶり。お引っ越しのとき以来だと思う。はじめての土地でわからないことだらけの私に、近所のスーパーやコンビニ、駅、学校、生活に欠かせない場所をならんで歩きながら教えてくれた。あのときは、駿河くんと一緒にいられる喜びで世界がキラキラしてた。私の世界には駿河くんしかいなかった。
でも、今の私の世界にはいろんなものが増えて、そのひとつひとつが私の形を教えてくれる。だから、知ってしまったんだ。形が違いすぎると、ぴったりになれないって。

周りの人の目が気になって、お買い物は昔のように楽しいことじゃなくなってしまった。
駿河くんのことを、ただ大好きでいられたころを思い出す。宝物だった思い出は、もうこの胸を痛ませるだけ。
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