ぼくたちは一生懸命な恋をしている
気がつけば、コートがないとこごえてしまいそうな季節になって。

その日、円香ちゃんは、いつになくソワソワしてた。

「なにかいいことがあったの?」

たずねると、肩をすくめて恥ずかしそうに、

「私、そんな顔してた?」

と、頬をほんのり赤くしてる。

「実はね、最近ウェブ小説にハマってて」

「ウェブ小説?」

「あいりちゃんは知らない?今すごく流行っててテレビでも話題なのよ」

円香ちゃんがスマホで見せてくれたのは、登録すれば誰でも作者や読者になれる小説サイトだった。

「素人の文章なんて、ってはじめは食わず嫌いしてたんだけど、読み出すと止まらなくって。お気に入りの小説の更新が待ち遠しくて、ついニヤニヤしちゃってたみたい」

読書家の円香ちゃんが言うんだから、ほんとに面白いんだろうな。興味がわいて、サイトのURLを私のスマホに送ってもらった。


その日の夜。寝る前にベッドに横になってサイトを開いてみた。

「どの作品を読むか迷ったら、ランキングの上位から選んでみると間違いないと思うわ」とアドバイスされた通り、ぱっと目についた一位の『Iria』さんっていう人の小説を読んで。

息が止まった。

これは、夢なの?
スマホに浮き上がる文章には、見覚えがある。ありすぎる。ウソだと思いたくてページをめくるけど、証拠が積み重なってくだけで、頭が真っ白になる。

この小説は、私の空想日記だ。

登場人物の名前は変えてある。でも、何もかもがそっくりそのまま、私が書いた物語そのもの。
どうして?恐くて息を乱しながら、部屋のすみの段ボールを開ける。あったはずの四、五冊が、ない。
思い浮かんだのは、かなでだった。小さい頃、空想日記を勝手に読んでからかってきたことがあったから。私はスマホを手に、夜だってことも忘れてバタバタと音を立てて、かなでの部屋に飛びこんだ。
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